アナリストの忙中閑話【第142回】

アナリストの忙中閑話

(2023年3月23日)

【第142回】岸田首相がキーウ訪問、WBC優勝、アカデミー賞は「エブエブ」が7冠、米銀破綻、韓国と豪州の30兆円投資

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

岸田首相は21日、ウクライナのキーウを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領と首脳会談

岸田首相は3月21日(現地時間)、ウクライナのキーウを電撃訪問し、ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と首脳会談を行った。

岸田首相は20日に、インドのニューデリーを訪問し、ナレンドラ・モディ首相と首脳会談を行った。当初の日程では21日午後(日本時間22日未明)に、インドから政府専用機で同行記者団らとともに、帰国の途につく予定だったが、岸田首相は20日夜に民間のチャーター機でインドを離れ、同日深夜、ウクライナの隣国、ポーランドのジェシュフ=ヤションカ空港に到着。その後、車でポーランドのプシェミシルの駅に向かい、列車に乗り換え、ウクライナのキーウに向かった。現地時間の21日正午過ぎ(日本時間午後7時過ぎ)に首都キーウの中心部の駅に到着した。

なお、岸田首相が乗ったチャーター機は、NHKによると、大リーグ、エンジェルスの大谷翔平選手が第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に参加するため、1日に米国から日本に帰国する際に使ったチャーター機と同じ機種で、10人あまりが搭乗できるとのこと。NHKの報道が正しければ、機種は「ボンバルディア・グローバル7500型」機とみられる。ボンバルディア社はカナダの航空機メーカーで欧州のエアバスと提携関係にある。

ボンバルディア社のHPによると、「グローバル7500型」機の航続距離は7,700海里(nautical mile、14,260km)で、インドからポーランドまでのノンストップ飛行が可能だ。巡航速度はマッハ0.85、最大19人の乗客が可能とされている。

首脳会談で、岸田首相は5月のG7広島サミットでは、法の支配に基づく国際秩序を守り抜く決意を示すとともに、国際社会が直面している食糧問題にも取り組む意向を示した。これまでに決定や表明をしている総額71億ドルのウクライナへの支援を着実に実施するとした上で、新たに、ウクライナに殺傷能力のない装備品を支援するため、NATO(北大西洋条約機構)の基金を通じて、3,000万ドルを拠出するほか、エネルギー分野などでの新たな無償支援として、4億7,000万ドルを供与すると表明。

一方、ゼレンスキー大統領は5月19日から21日に開催されるG7広島サミットにオンラインでの参加を表明した。

このタイミングでの岸田首相のキーウ訪問は、議長として迎える5月のG7広島サミットまでに是が非でもウクライナを訪問したいとの強い決意の表れ

このタイミングでの岸田首相のキーウ訪問は、議長として迎える5月のG7広島サミットまでに是が非でもウクライナを訪問したいとの強い決意の表れと言える。

G7サミットに出席する各国首脳、EU大統領及び欧州委員会委員長は全て、キーウを訪問済である。

2022年4月には英国のジョンソン首相(当時)が、同じく4月には欧州連合(EU)のミシェル大統領及びフォンデアライエン欧州委員長(何れも現職)が、5月にはカナダのトルドー首相(現職)が、6月にはマクロン大統領(現職)、ドイツのショルツ首相(現職)、イタリアのドラギ首相(当時)が、11月には英国のスナク首相(現職)が訪問している。

年初の段階で、現職で未訪問の首脳は、米国のバイデン大統領とイタリアのメローニ首相及び岸田首相の3人のみだったが、バイデン大統領は2月20日に、メローニ首相は翌21日にキーウを訪問。訪問できていないのは岸田首相一人となっていた。

欧米のメディアは、中ロ首脳会談と対比し、大きく報道

今回の岸田首相の訪問については、欧米のメディアも大きく取り上げているが、背景には、中国の習近平国家主席が同時期、ロシアを訪問し、プーチン大統領と首脳会談を行ったことで、東アジアの両国を対比する視点が強調されていることがある。

米ワシントンポストは「日本の岸田氏のキエフ訪問はロシアの習主席と対照的」、ニューヨークタイムズは「習主席とプーチン大統領は『緊密に協力する』ことを約束。日本の指導者がウクライナを訪問」、英BBCは「日本と中国の指導者がウクライナ戦争で対立する首都を訪問」と、そのコントラストを強調する記事が目立つ。

中国の習近平国家主席は20日から22日までの日程でロシアを公式訪問。習氏とプーチン大統領は20日と21日の二日間にわたり、夕食会を含め会談、計10時間に及んだ。

プーチン大統領は、中国とのこれまで以上に緊密な関係を約束、中国が提示したウクライナでの戦争終結を目指す案を称賛した。

中国は2月24日、停戦や和平交渉の再開など12項目からなる「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」とするウクライナ戦争和平交渉提案を公表。

12項目は、(1)各国の主権の尊重、(2)冷戦思考の放棄、(3)停戦、(4)和平交渉の開始、(5)人道的危機の解消、(6)民間人や捕虜の保護、(7)原子力発電所の安全確保、(8)戦略的リスクの低減、(9)食糧の外国への輸送の保障、(10)一方的制裁の停止、(11)産業チェーンとサプライチェーンの安定確保、(12)戦後復興の推進からなる。

原子力発電所などへの武力攻撃に反対、核兵器の使用及び使用の威嚇に反対などは盛り込まれているものの、ロシア軍の占領地からの撤退に関する項目が存在しない。

米国のブリンケン国務長官は20日、国務省で記者会見し、中ロ首脳会談について、「中国の支援を受けたロシアが、思い通りに停戦するための戦術的な動きに惑わされるべきではない」と述べている。

一方、今回の中ロ首脳会談で中国のロシアに対する軍事支援に関する言及はなかった。

但し、ロシアのペスコフ大統領報道官は21日、20日に行われた習氏とプーチン氏の対面での会談で「徹底的な」意見交換が行われたと述べており、首脳二人だけの会談では軍事支援を含め、突っ込んだ議論が行われた可能性がある。

NATOのストルテンベルグ事務総長は21日、ブリュッセルで記者団に対し、中国がロシアに武器を提供しているという証拠は見当たらないが、ロシアが要請した兆候があり、北京が検討していると述べている。

米国は20日、3.5億ドル規模のウクライナ向け追加軍事支援を発表、バイデン政権発足後累計332 億ドル

こうした中、米国は20日、ウクライナ向けの追加の軍事支援を発表。

約3億5,000万ドル相当の最新の軍事支援には、高機動ロケット砲システムの弾薬や高速対輻射源ミサイル(HARMs)等が含まれる。 米国の対ウクライナ軍事支援は、2022年2月24日にロシアが侵攻を開始して以来、325 億ドル、バイデン政権発足以来では、332 億ドルに上る。

欧州連合(EU)はウクライナに155ミリ砲弾など、弾薬100万発を提供する案で合意した。

20日、ブリュッセルで外相・国防相会合を開き、ロシアの侵攻を受けるウクライナに弾薬を供給するため、計20億ユーロを拠出して緊急に支援することで合意した。EUのボレル外交安全保障上級代表は会合後の会見で、「この1年で100万発の弾薬を供給する」と強調した。

EUは加盟国の在庫から直ちに供給する。費用はEUの域外支援用の基金から10億ユーロを拠出し、加盟国に供与分を補充する。また、価格を安く抑えるために各国が弾薬を共同購入し、その費用にさらに10億ユーロを充てる。ウクライナ戦争の長期化で、加盟国でも弾薬の在庫不足が深刻化しており、会合では、EU域内の弾薬の生産能力を強化する方針でも合意した。

また、ポーランドによる旧ソ連製の「ミグ-29」戦闘機4機のウクライナへの供与表明に続き、スロバキアのヘゲル首相は17日、「ミグ-29」戦闘機を13機、ウクライナへ供与すると表明した。

米国はウクライナに供与する米主力戦車「M1A1エイブラムス」について、今秋までに引き渡すと表明

一方、米国防総省のパット・ライダー報道官(空軍准将)は21日の会見で、ウクライナに供与する米主力戦車「エイブラムス」について、今秋までに引き渡すと表明した。

米政府は1月、ドイツによる主力戦車(MBT)の「レオパルド2」の供与表明に併せ、「エイブラムス」31両をウクライナに供与すると発表したが、引き渡しの時期を明示していなかった。

米国防総省は当初、メーカーに発注するため納入に1年以上かかる可能性も指摘していたが、米軍の保管在庫から供出し改良することで、納入に要する時間を大幅に短縮することに。

また、供与する「エイブラムス」は当初予定していた改良型の「M1A2型」ではなく、旧式の「M1A1型」とすることも発表。電子装備等、引き渡す戦車には「M1A2型」に極めて近い能力を持たせる」と説明した。

今夏から今秋がウクライナ戦争にとっては、山場になる可能性

筆者が「ゲームチェンジャー」になりうると見ている「GLSDB」も今秋までにはウクライナに供与されるとみられる。

「GLSDB」は地上発射型小口径爆弾と呼ばれる精密誘導兵器であり、「HIMARS」や多連装ロケット砲システム「M270」から発射される。弾薬の射程距離は約150キロと、これまで米国が提供していたロケット砲弾の射程距離約80キロのほぼ 2倍に。

中国によるロシア向け軍事支援の動向に加え、欧米からの新たな装備を得たウクライナ側の本格的反攻など、今夏から今秋がウクライナ戦争にとっては、山場になる可能性が高そうだ。

WBCで日本が米国を3対2で下し、3大会ぶり3度目の優勝

前述の通り、第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が3月8日から21日の日程で実施された。

決勝戦は21日にフロリダ州マイアミのローンデポ・パークで行われ、日本が米国を3対2で下し、3大会ぶり3度目の優勝を飾った。

初戦の中国戦、準々決勝のイタリア戦に加え、決勝戦で9回から日本の7番手としてマウンドに上がった大谷翔平選手がMVPに選出された。日本選手のMVPは優勝した2006年第1回大会、2009年第2回大会ともに選出された松坂大輔投手以来。

普段は余り野球を見ない筆者だが、準決勝のメキシコ戦と米国戦だけは視聴した。やはり、短期決戦では投手力が重要と感じた。近年、大リーグでも日本選手が多数活躍している状況を鑑みると、今後も日本チームは期待できそうだ。

一方で、2024年のパリ夏季五輪では野球はソフトボールとともに実施競技から除外されることが決まっている。人気の持続可能性を高めるためには、野球を欧州やアフリカ等、海外に広める必要もありそうだ。

第95回アカデミー賞授賞式が3月12日に開催、『エブエブ』が最多7部門受賞の快挙

第95回アカデミー賞授賞式が3月12日(日本時間13日)米ロサンゼルスのハリウッド&ハイランド・センターにあるドルビーシアターで開催された。

最多の10部門11賞にノミネートされていた『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(略称『エブエブ』)が、作品賞のほか、監督賞、脚本賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、編集賞の最多7部門を受賞。1作品で7部門以上の受賞は、2014年の第86回アカデミー賞で同じく7部門で受賞した『ゼロ・グラビティ』以来。

前月号で特集したが、新進気鋭の製作・配給スタジオ「A24」による最新作で、カンフーとマルチバース(並行宇宙)の要素を掛け合わせた異色のアクションアドベンチャー。

早速、公開直後に鑑賞したが、『エブエブ』は過去の作品賞受賞作にはない、やや「ハチャメチャ」な作品。また、主要人物の多くがアジア系でLGBT等も登場する極めて多様性に富んだ作品だ。

主演女優賞をアジア人として初めて受賞したミシェル・ヨーさんはマレーシアのペラ州イポー生まれの中国系マレーシア人。10代でロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・ダンスに通い、ミス・マレーシアに選ばれたのち、香港映画で有名になった。

さすがに、筆者は『エブエブ』の主要賞総なめはなかろうと思っていたが、史上初めて主要8部門のうち、主演男優賞以外の6つを制する偉業を達成、オスカーの歴史を塗り替えた。今回は映画芸術科学アカデミー及びアカデミー賞の変化を再認識させられることになった。

他の受賞作品では、『西部戦線異状なし』が国際長編映画賞、美術賞、撮影賞、作曲賞の4部門を受賞。

筆者が注目していたし歌曲賞(主題歌賞)は、インド映画の『RRR』の「Naatu Naatu」が受賞。同部門でのインド映画のノミネートも受賞も、本作が初となった。なお、『RRR』は我が国でも根強い人気で、2022年10月21日の公開から5か月が経過した現在でも興行が続いている。

欧米で金融不安が再燃、米銀2行が破綻、スイス最大手行が第2位の大手行を買収

アカデミー賞授賞式の華やか光景とは裏腹に、前週は欧米で金融不安が再燃した。

ハリウッド同様、カリフォルニア州に本店を構える米国の中堅銀行のシリコンバレー銀行とニューヨーク州を拠点とするシグニチャー銀行が相次いで破綻し、米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に入った。

バイデン大統領は12日の声明と13日朝の記者会見で、特例による預金の全額保護を表明するとともに、公的資金の投入を否定、経営陣や株主の責任追及を表明した。また、トランプ政権下における銀行規制の緩和に言及しつつ、今回の銀行破綻の原因究明と防止策の強化を図る方針を強調した。

今回の米銀の破綻は、2020年10月に閉鎖されたアルメナ州立銀行以来。規模としては、シリコンバレー銀行が、2008年の金融危機で破綻したワシントン・ミューチュアルに次ぐ2番目、シグニチャー銀行が3番目。

一方、かねて、不祥事等で信用力が劣化していたスイスの銀行大手、クレディ・スイスは今回の米銀破綻の影響を受け、株価が一段と下落。19日、スイス政府の強い後押しで、スイス金融最大手のUBSが、クレディ・スイスを30億スイスフランで買収することで合意したと発表した。

米サブプライムローン問題に起因し、2008年に発生した米投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻による金融危機再来との観測も流れたが、リーマンショック後、我が国を含め、銀行規制は厳格化されている。特に大手銀行への規制は自己資本等含め強化された。

今回の2米銀及びクレディ・スイスは個社の特殊事情を抱えており、今回の銀行破綻がどんどん連鎖し、再度の金融危機を引き起こす可能性は低いとみられる。

FDICによると、近年は好景気もあって、2015年以降の銀行破綻・支援の件数は年間ゼロから一桁にとどまっている。2020年は4件。1980年代後半のS&L危機時には年間数百件に上った。2008年のリーマンショック後も2009年と2010年は年間100件を上回っていた。

銀行業界の先行きに重要なのは、実体経済の動向だろう。今後、景気後退に伴い企業や個人の破産が増加、不良債権比率が顕著な上昇を見せるか否かを注視したい。

太平洋地域における二つの30兆円投資、韓国のサムスン電子が今後20年間で30兆円の半導体投資を発表

欧米が金融不安に見舞われる中、筆者が前週、中長期的な観点で注目したのは、太平洋地域における二つの30兆円投資だ。

韓国のサムスン電子は、京畿道の龍仁市に今後20年間で300兆ウォン(約30兆円)を投資し、半導体委託生産工場5か所を建設することを決めた。

韓国政府が15日午前に開いた経済会議で、サムスンの半導体部門トップの慶桂顕社長が明らかにした。半導体関連企業150社を誘致し、世界最大規模のシステム半導体製造拠点を構築する構想。

米国は「半導体と科学法:The CHIPS and Science Act of 2022」(以下、半導体法)を超党派の賛成で2022年8月に成立させた。

半導体法は、中国などに対抗し、半導体の国内生産や研究開発の支援に520億ドル超の補助金を投じる内容。半導体投資を促すために25%の税額控除を4年間認める制度も設けた。総額では2,800億ドル規模に上る。また、連邦政府の資金提供を受けてから10年間、企業が「中国またはその他の懸念される外国」に、新しい種類の半導体製造施設を建設することを禁止する条項も含まれている。

米国が半導体産業の西側諸国内での囲い込みを進める中、サムスンは中国への投資を今後低減し、韓国内及び米国での投資に傾注する構えだ。

米英豪の首脳が次世代原子力潜水艦計画を発表

一方、米国、英国、オーストラリアの3か国による安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の首脳会合が13日、米カリフォルニア州サンディエゴで開かれ、3か国首脳は次世代原子力潜水艦計画の詳細を明らかにした。

バイデン大統領は、原子力潜水艦について、核兵器は搭載せず、非核保有国の立場を取るオーストラリアの取り組みを危うくするものではないと強調した。

3月14日に発表された3カ国の共同声明や米国防総省などによると、AUKUSの原潜計画はいくつかの段階に分かれており、最初の段階はすぐに開始される。王立オーストラリア海軍(RAN)の隊員は今年2023年から、米英の潜水艦基地に派遣され、潜水艦を使用するのに必要なスキルを身につける。

米国は2023年から、英国は2026年から、通常兵器で武装した原子力潜水艦のオーストラリアへの寄港を増やし、早ければ2027年には、パースにあるRANの基地に少数の原子力潜水艦を配備する。

次の段階では、米国は2030年代初頭に、バージニア級攻撃型原子力潜水艦3隻をオーストラリアに売却する(さらに2隻を追加購入できるオプション付き)。

英国及びオーストラリアの両海軍のための、「SSN-AUKUS」を設計・建造

その後、英国及びオーストラリアの両海軍のための次世代原潜「SSN-AUKUS」を設計・建造する。SSNは攻撃型原子力潜水艦を意味する。

この攻撃型潜水艦は英国が設計し、英豪で建造されることになるが、3カ国すべての技術が用いられる。

英政府によると、「SSN-AUKUS」の最初の潜水艦は 2030年代後半に英国海軍に納入され、現在の「アスチュート級」攻撃型原子力潜水艦と交代する。一方、オーストラリアで製造した最初の「SSN-AUKUS」のオーストラリア海軍への納入は2040年代初頭になるとのこと。

14日付の公共放送ABCによると、オーストラリア国内では40年代初頭から2年に1隻のペースで「SSN-AUKUS」を建造して就役させる。50年代中盤までのオーストラリア製原潜の配備数は5隻、60年代までには合計8隻となる可能性があるとのこと。バージニア級原潜(3-5隻)を含めると最大13隻となる可能性もある。

米国は潜水艦の建造能力を高め、バージニア級原潜のメンテナンスを改善するために今後数年間で総額46億ドルを投じる。

英国のスナク首相は、今後2年間で防衛費を50億ポンド近く増額させると約束した。

オーストラリアはGDPの0.15%相当を原潜配備に充当、今後30年の総費用は最大3,680億豪ドル(約33兆円)

一方、オーストラリアは国内総生産(GDP)の0.15%相当を原潜配備に充てる。豪ABCによると、オーストラリア政府は今後約30年間の総費用を2,680億〜3,680億豪ドル(約24兆円〜約33兆円)と見積もっている。

会談後の記者会見でアルバニージー首相は「何千もの新規雇用を創出するだろうとし、「オーストラリアの防衛能力に対する豪史上最大の単独投資」(14日付けBBC)と述べた。

また今回の合意について、アメリカが核推進技術を共有するのは65年ぶり、史上2度目の事だとした。

2021年9月に発足が発表された「AUKUS」の背景には、その名の通り、新造の攻撃型原子力潜水艦「SSN-AUKUS」の開発・配備計画があったことが、今回の発表で明確になったと言えそうだ。

共同声明では「AUKUSは安全で安定した自由で開かれたインド太平洋を促進する新しい安全保障パートナーシップである。AUKUSの主要な第1歩は、オーストラリアが通常兵器で武装した原子力潜水艦 (SSN) を取得することを支援するという歴史的な三国間の決定となった」と謳っている。

仮想敵国に関し、共同声明では名指しされていないが、海洋進出を強める中国及びウクライナを侵攻したロシアであることは明らかだろう。

中国はAUKUSに関し、繰り返し批判。外務省の毛寧報道官は、AUKUSは軍拡競争を引き起こす危険性があり、アジア太平洋地域の平和と安定を損なうものだという中国政府の立場を改めて強調した。中国はオーストラリアの主要輸出国だが、今後の両国の関係も注視する必要がありそうだ。

韓国とオーストラリアの30兆円投資は新冷戦本格化の号砲か

韓国とオーストラリアの30兆円投資は、将来的な太平洋地域における地政学的リスクの高まりや中国と西側諸国の分断に備えたものとみられる。

IMF(国際通貨基金)の経済顧問のグランシャ氏は1月30日公表の「世界経済見通し」で、「地経学的な分断の力が強まっている」と指摘。地経学(geo-economics)とは、地政学の一分野だが、経済的な側面を重視。東西冷戦の終焉でグローバル化が進んだ今日こそ、重要性を増していると言える。

今回の韓国とオーストラリアの30兆円投資は新冷戦本格化の号砲と言えるかもしれない。

映画観客動員ランキングで『シン・仮面ライダー』抑え、『わたしの幸せな結婚』が初登場第1位に

前週末(3月17日-19日)の映画の観客動員ランキングでは、顎木あくみ氏の大ヒット和風ファンタジー小説を目黒連さん主演、今田美桜さん共演で映画化した『わたしの幸せな結婚』が初登場第1位に(興行通信社調べ、以下同じ)。公開3日間で動員47万9,700人、興収6億5,400万円をあげた。

同作品は単なる青春ラブストーリーではなく、「ハイカラさん」的な雰囲気の中、オカルトやアクション的要素もあり、予想以上に楽しめた。エンドロール後の映像からは続編も期待できそうだ。なお、『呪術廻戦』七海建人役の声優、津田健次郎氏が『映画 イチケイのカラス』に続き、本作では宮内省長官役で出演。

2位は前月号で特集した庵野秀明氏が監督・脚本を務めた『シン・仮面ライダー』がやはり、初登場でランクイン。公開3日間で動員34万5,000人、興収5億4,200万円。

庵野監督にとっては、初登場2位は不本意かもしれないが、本作は仮面ライダー1号及び仮面ライダー2号が登場するTV版「仮面ライダー」(1971年から1973年放映)のリメイク及びオマージュ作品のため、「平成仮面ライダー」とは趣が異なる。PG12(12 歳未満の年少者の観覧には、親又は保護者の助言・指導が必要)となったことで親子連れが少ないのも不利となったか。

3位も前月号で特集した『ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア)』が2週連続第1位の後、ランクダウン。

4位は公開16週目に突入した『THE FIRST SLAM DUNK』。累計興収121.7億円。

5位は前月号で特集した『なのに、千輝くんが甘すぎる。』。亜南くじら氏の人気少女漫画をなにわ男子の高橋恭平さんと畑芽育さんの主演で実写映画化した青春ラブストーリー。

6位は前述の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』。前週の5位からワンランクダウンも、トップ10で唯一、前週を上回る動員・興収を記録。

7位は前月号で特集した『シャザム!〜神々の怒り〜』が初登場。見た目は大人だが中身は子どものヒーロー、シャザムの活躍を描いた、DCコミックス原作のアクションエンタテインメント『シャザム!』(2019年4月公開)のシリーズ第2作。

他に前月号で特集した作品では、9位に『長ぐつをはいたネコと9つの命』が、10位には『BLUE GIANT』が入った。何れも見応えのある作品であり、お薦めしたい。

なお、前週のトップと5位にランクインした青春物2作品は、本コラムで特集しておらず、不覚を取った。特に、「スノーマン」の目黒連さんは3月10日に授賞式が行われた第46回日本アカデミー賞でも、本コラムで特集した『月の満ち欠け』で優秀助演男優賞と新人俳優賞を受賞しており、『わたしの幸せな結婚』は前月号で特集しておくべきだったと反省している。

なお、第46回日本アカデミー賞は、石川慶監督の『ある男』が最優秀作品賞を含む最多8部門(最優秀監督賞、最優秀脚本賞、最優秀主演男優賞、最優秀助演男優賞、最優秀助演女優賞、最優秀録音賞、最優秀編集賞)を受賞。

本コラム11月号でも取り上げたが、冒頭シーンに登場する後ろ姿の男性の絵が象徴的で、ホラーではないがやや怖い、徐々に吸い込まれるような映画だ。

春休み映画公開、この時期恒例の『名探偵コナン』の新作も

4月に向けても、春休み向け映画等、内外の注目作品が相次いで公開される。

3月24日公開 の『シング・フォー・ミー、ライル』は、米児童文学作家バーナード・ウェーバー氏の名作絵本「ワニのライル」シリーズを実写化したミュージカル映画。

ニューヨーク。ショーマンのヘクターは古びたペットショップで、魅惑の歌声を耳にする。歌っていたのはなんと、一匹のワニだった。ヘクターはそのワニのライルを相棒にしようとするが、ライルのステージ恐怖症が判明し、ショーは大失敗。ヘクターは去り、取り残されたライルはたった一匹、アパートの屋根裏に隠れ住むのだった。ヘクターが残していった音楽プレーヤーを握りしめて。長い月日が経ったある日、ひとりの少年と家族がライルの潜む家に越してくる。その少年ジョシュもまた、ライルと同じく心に深い孤独を抱えていた。ジョシュを前に再びゆっくりと歌い始めるライル。やがてふたりは歌を通して心通じ合わせていく。大泉洋さんが歌うワニ・ライルの吹き替えに挑戦、歌声に注目。

3月24日公開の『ロストケア』は、第16回日本ミステリー文学大賞新人賞に輝いた葉真中顕氏のデビュー小説を、前田哲監督が実写化。松山ケンイチさんと長澤まさみさんが初共演で連続殺人犯として逮捕された介護士と検事の対峙を描いた。

早朝の民家で老人と訪問介護センター所長の死体が発見された。捜査線上に浮かんだのは、センターで働く斯波だが、彼は介護家族に慕われる献身的な介護士だった。検事の大友は、斯波が勤める訪問介護センターで老人の死亡率が異常に高く、彼が働き始めてからの死者が40人を超えることを突き止める。真実を明らかにするため、斯波と対峙する大友。自分のしたことは「殺人」ではなく「救い」だと主張する斯波。彼は何故多くの老人を殺めたのか?彼が言う「救い」の真意とは何なのか?そして彼女は、法の正義のもと斯波の信念と向き合っていく。

3月31日公開の『映画 ネメシス 黄金螺旋の謎』は横浜の探偵事務所ネメシスを舞台に、広瀬すずさん演じる探偵助手の美神アンナと、櫻井翔さん演じる天才探偵を自称する風真尚希、そして江口洋介さん演じる探偵歴30年の大ベテラン栗田がさまざまな依頼に挑む人気ドラマ「ネメシス」を入江悠監督のメガホンで映画化。

横浜の探偵事務所ネメシスに、超高額依頼が飛び込んできた。依頼内容は、誘拐されたペットの犬を無傷で奪還すること。早速調査を開始した美神アンナと風真尚希の探偵コンビだったが、アンナの目の前で襲撃された男の死体が消えるという、不可解な事件が発生する。「ペット誘拐」「死体消失」二つの事件の関連性を探るアンナと風真。しかしそれは、決して開いてはならないパンドラの箱だった。

3月31日公開の『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』は、世界初のロールプレイングゲームとしても知られる「ダンジョンズ&ドラゴンズ」を新たに映画化。

様々な種族、モンスターが生息する世界、フォーゴトン・レルム。盗賊のエドガンと彼の相棒である戦士のホルガは、ある目的のために旅に出る。特殊能力を持った魔法使いサイモンとドルイドのドリック、そして聖騎士のゼンクとパーティを組み、全世界を脅かす巨大な悪の陰謀に対峙することになる。

4月7日公開の『仕掛人・藤枝梅安2』は池波正太郎のベストセラー時代小説「仕掛人・藤枝梅安」シリーズを、池波正太郎生誕100年となる2023年に豊川悦司さん主演で映画化した2部作の第2部。

4月7日公開の 『ノック終末の訪問者』はM・ナイト・シャマラン監督が、ポール・トレンブレイの小説「終末の訪問者」を原作に、世界の終末と家族の命を天秤にかけた非情な決断を迫られる一家の危機を描いたスリラー。

人里離れた山小屋で休暇を過ごしている3人の家族の前に突如現れた、謎の4人組。彼らは家族を拘束し、こう告げた。「私たちは、『終末』を防ぎに来た。君たちの『選択』に懸かっている」「家族3人のうち、犠牲になる1人を選べ」「しくじれば…世界は滅びる」。果たして、4人の訪問者は何者なのか?なぜ、世界は終末を迎えることになるのか?そして、正気とは思えない究極の『選択』の結末とは?

4月7日公開の 『ザ・ホエール』は劇作家サム・D・ハンターによる舞台劇を原作に、死期の迫った肥満症の男が娘との絆を取り戻そうとする姿を描いた作品。

272キロの巨体の男チャーリーを演じたブレンダン・フレイザーさんが第95回アカデミー賞で主演男優賞を受賞。メイクアップ&ヘアスタイリング賞とあわせて2部門を受賞。

名探偵コナン 黒鉄(くろがね)の魚影(サブマリン)

『名探偵コナン 黒鉄(くろがね)の魚影(サブマリン)』
2023年4月14日全国東宝系にてロードショー
©2023 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

4月14日公開の『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』は大ヒットアニメ「名探偵コナン」の劇場版シリーズ第26作。

八丈島近海に建設された世界中の警察が持つ防犯カメラを繋ぐための海洋施設「パシフィック・ブイ」。本格稼働に向けて、ヨーロッパの警察組織・ユーロポールが管轄するネットワークと接続するため、世界各国のエンジニアが集結。そこでは顔認証システムを応用した、とある「新技術」のテストも進められていた。一方、園子の招待で八丈島にホエールウォッチングに来ていたコナン達少年探偵団。

するとコナンのもとへ沖矢昴(赤井秀一)から、ユーロポールの職員がドイツでジンに殺害された、という一本の電話が。不穏に思ったコナンは、「パシフィック・ブイ」の警備に向かっていた黒田兵衛ら警視庁関係者が乗る警備艇に忍び込み、施設内に潜入。すると、システム稼働に向け着々と準備が進められている施設内で、ひとりの女性エンジニアが黒ずくめの組織に誘拐される事件が発生。さらに彼女が持っていた、ある情報を記すUSBが組織の手に渡ってしまう。海中で不気味に唸るスクリュー音。そして八丈島に宿泊していた灰原のもとにも、黒い影が忍び寄る。

マスク着用は屋内・屋外を問わず個人の判断に、但し花粉症患者にはマスクが手放せない

前週の3月13日(月)からは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策としてのマスクの着用について、屋内・屋外を問わず個人の判断に委ねられることになった。

映画館でもマスク着用を呼び掛ける表示がなくなり、筆者の自宅マンションでも、共用部のマスク着用が任意となった。

なお、政府は、医療機関を受診する際や通勤ラッシュ時といった混雑した電車やバスに乗る際などには、マスクの着用を推奨している。

但し、今春はスギやヒノキの花粉飛散量が半端ない。10年ぶりの多さ、東京では平年比2倍、昨年比では3倍近くの多さが予想されている。実際、筆者の鼻や目の花粉探知機も2月以来、赤ランプが点灯し続けている。

薬、マスクに加え、外出時は花粉防止眼鏡も着用してフル装備だ。おかげで満開となった桜の花見の予定もいれられない。

花粉症はマスク文化を通じて、我が国におけるCOVID-19感染拡大防止には役立った面もあるが、今年は花粉症デビューした知人も多い。医療費の増加に加え、生産性低下に結びつく効果もあり、どうにかならないものだろうか。

ちなみに、スギの正式名称は「Cryptomeria japonica:クリプトメリア・ジャポニカ」で、日本固有種である。和名は「直立する木」に由来するとされている。

加工がしやすく、生育も早いことから、戦後の人工林に加え、最近は新興国や発展途上国など海外でも植林されているようだ。

世界中にスギが拡がる前に、花粉症対策だけは我が国が確立する必要があろう。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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