アナリストの忙中閑話【第145回】

アナリストの忙中閑話

(2023年6月22日)

【第145回】ウクライナの反転攻勢開始、エルニーニョ現象発生、今夏に第9波到来か、衆院解散見送り、内外の注目映画多数公開

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

ウクライナ軍の大規模反転攻勢開始

ウクライナ軍の大規模反転攻勢が始まった。

ウクライナのゼレンスキー大統領は6月10日、カナダのトルドー首相との共同記者会見の席上、記者団に対し、「ウクライナでは反撃の行為と防衛の行為が起きているが、いまどの段階にあるのか詳しくは話せない」(10日付けロイター)としつつ、「ウクライナ軍将官の士気は高い。プーチン大統領にそう伝えてほしい」と述べ、ウクライナ軍による反転攻勢開始を初めて確認した。

カナダのトルドー首相は10日、キーウを訪問し、軍事支援のために5億カナダドルの資金を提供するほか、対空ミサイルなどの供与も発表していた。

プーチン大統領はロシア軍が反撃を阻止していると主張、英国防省や戦争研究所も反転攻勢を確認

一方、ロシアのプーチン大統領は9日、ロシア南部のソチで記者団に対して、ウクライナの反転攻勢について、「始まったと確実に言える」(10日付けNHK)と述べ、反転攻勢が始まったという認識を初めて示した。そして、「この5日間、激しい戦闘が行われている。しかし敵はどの地域でも成功しなかった」とし、ロシア軍が反撃を阻止していると主張した。

英国防省は10日、ウクライナが過去48時間に東部と南部の複数の場所で「重要な」作戦を展開したとしている。ウクライナ側については「最初の防衛線を突破したとみられる地域もあれば、前進が遅い地域もある」。ロシア側については「防衛できている部隊もあれば、混乱して撤退している部隊もある。撤退の際に自分たちが敷設した地雷原を通ることから、犠牲者の報告が増えている」とした。

米シンクタンク「戦争研究所(ISW)」は11日、ウクライナ軍は前線の少なくとも3つの地域で反撃作戦を実施、10日と11日に領土を回復したとしている。21日付けレポートでも、同軍は21日、前線の少なくとも3部門で反撃作戦を実施したと報告。

欧米諸国は地対空ミサイルや、戦闘継続のため必要な砲弾等の支援を本格化

反転攻勢が開始されたことで、カナダを初め、欧米諸国は、米機密文書の漏洩、いわゆる「ディスコード・リークス」でも不足が指摘されていた地対空ミサイルや、戦闘継続のため必要な砲弾等の支援を本格化させている。

米国防総省は6月9日、21億ドル規模の追加のウクライナ向け軍事支援を発表した。

最新パッケージには、「パトリオット」防空システム及び「ホーク」防空システムの追加弾薬、105mm及び203mm砲弾、「ピューマ」無人航空機システム、レーザー誘導ロケットシステムの弾薬等が含まれている。今回は、ウクライナ安全保障支援イニシアティブ(USAI)に基づき、兵器メーカーや同盟国・パートナー国からの調達が実施される。

米国によるウクライナ向けの軍事支援は、バイデン政権発足後で407億ドル、2022年2月の侵攻開始以来で400億ドルに上る

米国防総省は6月13日にも、3億2,500万ドル規模の追加のウクライナ向け軍事支援を発表した。

今回の支援は、2021年8月以来、ウクライナ向けの国防総省装備品の40回目のドローダウン(在庫放出)。

最新パッケージには、「NASAMS」防空システム、「スティンガー」対空システム、155mm及び105mmの榴弾砲用の砲弾、「ブラッドレー」歩兵戦闘車15両、「ストライカー」装甲車10両、「ジャベリン」対戦車ミサイル等が含まれている。

米国によるウクライナ向けの軍事支援はバイデン政権発足後で407億ドル、2022年2月の侵攻開始以来で400億ドルに上る。

今回のウクライナ軍の大規模反転攻勢の最大の目標

今回のウクライナ軍の大規模反転攻勢の最大の目標は、ザポリージャ州のロシアの防衛線をアゾフ海まで抜いて、クリミア半島とドンバス地方を結ぶ「陸の回廊」を寸断させることとみられる。

実際、ロシア軍がザポリージャ州で撮影したとし公開した映像でも、ドイツ製の「レオパルド2」主力戦車や米国製の「ブラッドレー」歩兵戦闘車、フランス製の「AMX−10RC」軽戦車などの映像が映りこんでいる。今回、ウクライナが反転攻勢のため西側兵器等で新たに編成した12の突撃旅団が相当数、ザポリージャ州に投入された可能性が高そうだ。

ロシア軍による大規模な塹壕や「竜の歯」と呼ばれる装甲部隊等の進軍を阻む障害物の構築も多数確認

但し、英国防省の分析にもあるように、ロシア側も準備をしており、昨年秋のハルキウ州やドニプロ川北岸のへルソン市奪還のように、簡単にはいかないだろう。

主戦場になるとみられる南部ザポリージャ州やヘルソン州、クリミア半島北部では、ロシア軍による大規模な塹壕や「竜の歯」と呼ばれる装甲部隊等の進軍を阻む障害物の構築も多数確認されている。

通常、攻撃は守備側の3倍の戦力を要するとされる。

ウクライナは2022年9月以降、ハルキウ州やヘルソン州で、占領地を1万平方キロ以上、国土の約2%を奪還したが(現在の被占領地域はクリミア半島含め約18%)、当該地域は、ロシアとの国境線からも遠く、ドニプロ川の北岸ないし西岸と、補給面でもロシアに不利な地域であった。

今回の大規模な反転攻勢では立場が逆転することになる。前述の「ディスコード・リークス」では、米安全保障当局の分析結果として、重火器、弾薬、人員の不足に直面しているウクライナ軍はおそらく春の作戦で「わずかな領土獲得」しか得られないと予測していた。

仮に、対空システムや長距離精密誘導兵器の配備が進まない中、進軍を進めた場合、ロシア軍による空爆や長距離砲撃等より、ウクライナ側がこれまでとは逆に大きな損害を被る可能性も否定できない。

実際、8日とみられるザポリージャ州の戦闘では、ウクライナ軍はドイツ製の主力戦車「レオパルト2」を3両、フランス製の軽戦車「AMX-10RC」を2両、米国製の歩兵戦闘車「ブラッドレー」は11両を一度に失ったとみられる(「Oryx」)。

「ブラッドレー」の損失はその後も増加しており、既に少なくとも18両に上った模様だ(同)。前述のように、米国が15両の追加供与を発表している。ドイツ製の主力戦車「レオパルト2」は5両、フランス製の軽戦車「AMX−10RC」も3両損失した模様(同)。

現代戦における「ゲームチェンジャー」は、戦車ではなく、長距離精密誘導兵器

映像で見る限り、8日の戦闘では、ウクライナ軍部隊が縦列走行中、ロシア軍のドローンに発見され、長距離精密砲撃ないし空爆にて破壊されたものとみられる。

ロシア軍はウクライナ南部に戦車の「天敵」である攻撃ヘリコプターを大量投入しているとの情報もある(ISW)。

ちょうど、ロシア軍が開戦初期に、キーウ近郊等で、ウクライナ軍のドローン攻撃等に見舞われた状況と同様だ。

現代戦における「ゲームチェンジャー」は、戦車ではなく、航空機やドローン、長距離精密誘導兵器だ。

今後、ウクライナ軍の反転攻勢の趨勢を決めるのは、英国製の「ストームシャドウ」巡航ミサイルや米国製の「GLSDB」等の長距離精密誘導兵器、また、敵航空機やドローン、ミサイルを撃墜するための、地対空ミサイルの前線への投入量と、欧米諸国からの敵位置情報等と言えそうだ。

早いタイミングで大きな戦果は期待できず、戦局も大きな変化はなさそうだが、長期的な継続戦闘能力に影響を及ぼす可能性

遂に開始されたウクライナ軍の大規模反転攻勢だが、早いタイミングで大きな戦果は期待できないと言えそうだ。戦局も急激で大きな変化はなさそうだ。

ゼレンスキー大統領は21日に英BBCが報じたインタビューで、大規模な反転攻勢について「我々が望んでいたよりも遅い」と述べ、地雷原などで防御を固めるロシア軍相手に苦戦していることを認めた。「ハリウッド映画とは違う」とも語った。

今回の反転攻勢の結果は、ウクライナにとっては、友好国からの今後の支援姿勢に、ロシア側にとっては、2024年3月のロシア大統領選に向けた国民の支持動向等、長期的な継戦能力に影響を及ぼす可能性がある。

何れにせよ、ウクライナ軍の大規模反転攻勢の動向は要注目と言えそうだ。

4年ぶりに「エルニーニョ現象」発生

4年ぶりに、「エルニーニョ現象」が発生したようだ。

気象庁は6月9日発表のエルニーニョ監視速報(No. 369)で、「エルニーニョ現象が発生しているとみられる。今後、秋にかけてエルニーニョ現象が続く可能性が高い(90%)」とした。

なお、気象庁では、エルニーニョ現象等監視海域の海面水温の基準値(30年平均)との差の5カ月移動平均値が6カ月以上続けて、+0.5度以上となった場合を「エルニーニョ現象」、▲0.5度以下となった場合を「ラニーニャ現象」と定義している。一方、エルニーニョ監視速報においては速報性の観点から、実況と予測を合わせた5か月移動平均値が+0.5℃以上(-0.5℃以下)の状態で6か月以上持続すると見込まれる場合に「エルニーニョ(ラニーニャ)現象が発生」と表現している。

一方、米気象予報センター(CPC)は、6月8日付けレポートでは、5月に弱いエルニーニョ現象が発生したとし、冬にかけて、徐々に強まるとした。

オーストラリア気象局、「エルニーニョ警報」発動

他方、オーストラリア気象局(BOM)は、2023年6月20日付けレポートでは、現在は中立状態としつつも、「El Niño ALERT(エルニーニョ警報)」を発動。これは、2023年にエルニーニョが発生する可能性が70%であることを意味する。70%は通常の3倍の発生確率。

オーストラリアでは通常、エルニーニョは、より乾燥したシーズンを、ラニーニャは多湿の年をもたらす。

インド洋ダイポールモード現象(IOD)は中立状態、南半球の冬(北半球の夏)の間に、正のIODが発生する可能性

BOMによると、インド洋ダイポールモード現象(Indian Ocean dipole mode:IOD)に関して、6月20日付けレポートでは、南半球の冬(北半球の夏)の間に、正(ポジティブ)のIODが発生する可能性があるとしている。正のIODが発生すると、通常、オーストラリアの降雨量を抑制し、エルニーニョの乾燥効果を悪化させる可能性がある。

我が国では、正のIOD発生時は降水量が減少し、気温が高くなる傾向、今冬は暖冬か

日本への影響は、正(ポジティブ)のIOD発生時は降水量が減少し、気温が高くなる傾向がある。

一方、エルニーニョ現象が「冷夏・暖冬」を招きやすいとされるのに対し、ラニーニャ現象は「猛暑・厳冬」と反対の特性がある。但し、近年は地球温暖化の影響で、エルニーニョ現象が発生すると、冬は記録的な暖冬、夏は平年並の暑さとなることが多く、一方、ラニーニャ現象が発生すると、夏は記録的な猛暑、冬は平年並の寒さとなることが多い。

2023年から2024年にかけては、世界の平均気温が過去最高を更新する可能性、大雨と干ばつという2極化を促進する可能性にも要注意

世界気象機関(WMO)のペテリ・ターラス事務総長は5月3日、「エルニーニョへの備え」と題するレポートの中で、「過去3年間はラニーニャ現象が発生し、これが地球の気温上昇に一時的なブレーキとして機能したにもかかわらず、記録上最も暖かい8年を迎えたばかりだ。エルニーニョの発生は地球温暖化の新たな急伸につながり、気温の記録を破る可能性が高まるだろう」と述べている。

WMOの地球気候情勢報告書によると、非常に強力なエルニーニョ現象と温室効果ガスによる人為的温暖化という「二重の打撃」により、2016年は観測史上最も暖かい年となった。地球の気温への影響は通常、その発生の翌年に現れるため、2024 年に最も顕著になる可能性があるとのこと。

2023年から2024年にかけては、世界の平均気温が過去最高を更新する可能性に警戒が必要だろう。

なお、WMOは2023年から2027年までの少なくとも1年間の平均気温が2016年を超えて最高を更新する確率を98%としている。

エルニーニョ現象は熱帯太平洋の中央・東部で海面水温の上昇に関連して自然に発生する気候パターンであり、平均して2〜7年ごとに発生し、通常9〜12か月続く。

エルニーニョ現象は通常、南アメリカ南部、米国南部、アフリカの角、中央アジアの一部で降雨量の増加と関連し、対照的に、オーストラリア、インドネシア、南アジアの一部に深刻な干ばつを引き起こす可能性がある。

エルニーニョ現象の発生は、気温の上昇に加え、近年の特徴である大雨と干ばつという2極化を促進する可能性にも注意が必要だろう。

気象庁が6月20日に発表した7月から9月の3か月予報では、向こう3か月の気温は、暖かい空気に覆われやすいため、東日本では平年並か高く、西日本や沖縄・奄美では高い見込み。

向こう3か月の降水量は、前線や低気圧の影響を受けやすい東・西日本で平年並か多い見込みとなった。

特に気温は8月に高温が予想され、降水量は7月が多い見込み。梅雨末期の豪雨や8月の猛暑に警戒が必要だ。

COVID-19の全国の定点当たり報告数は5類移行後も4週連続で増加

暑い夏に警戒が必要なのは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)も同様だ。

6月16日、新型コロナウイルス対策について助言する厚生労働省の専門家会合(第122回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード)がCOVID-19の感染症法上の位置付けが2類相当から5類への移行後初めて開催された。

専門家会合では、新規患者数は4月上旬以降緩やかな増加傾向で、5類移行後も4週連続で増加が続き、地域別では36の都道府県で前の週より増え、沖縄県では感染拡大の傾向がみられるとした。

「XBB系統」が主流に、夏の間に一定の感染拡大が起きる可能性

2023年第23週(6月5〜11日)の全国の定点当たりの報告数は5.11で、前週の4.55から増加。増加率は1.12倍。報告者の総数は2万5,163人。

検出される新型コロナウイルスの種類はオミクロン株のうちの「XBB系統」が主流となった。XBB.1.16系統は25.1%、XBB1.9.1系統は7.0%。6月下旬時点には「XBB.1.16」が49%になると推定。

さらに今後の感染の見通しについて、過去の状況などを踏まえると、夏の間に一定の感染拡大が起きる可能性があり、医療提供体制への負荷が増大する場合も考えられるとしていて、感染やワクチンによって得られた免疫が弱まる状況や、より免疫を逃れやすい可能性がある変異ウイルスの増加、接触する機会の増加によって感染状況に与える影響にも注意が必要とした。

5月時点のCOVID-19の抗体保有率は42.8%、2月時点の42.0%から微増

一方、専門家会合では、5月時点のCOVID-19の抗体(抗N抗体)保有率の結果も示された。

厚生労働省が、日本赤十字社による協力のもと実施した調査は、調査時期が5月17日〜31日。対象者は調査期間中に日本赤十字社の献血ルーム等を訪れた16歳から69歳の献血者18,048名。対象地域は全都道府県で、測定項目は抗N抗体。

抗体保有率の測定結果(速報値)は、全体で42.8%、2月調査時の42.0%から微増にとどまった。2022年11月は28.6%だった。

年代別では、16歳から19歳が60.5%、20代が53.0%、30代が51.4%、40代は46.0%、50代は36.2%、60代は28.8%と、過去の調査結果同様、年代が上がるほど低い傾向が見られた。

地域別では、沖縄県が63.0%、宮崎県と東京都で52.9%、大阪府で49.5%などと高かった一方、石川県で34.1%、青森県で34.9%などと地域によって依然、差が見られた。但し、第8波では地方での感染が拡大したことで、昨年11月の調査結果と比較すると、地域差は縮小している。

北半球が夏となる(南半球が冬となる)、今夏(今冬)、COVID-19の第9波が到来する可能性

我が国では5月8日のCOVID-19の5類移行後、新規感染者が全数把握から、季節性インフルエンザと同様の定点把握に変更となり、抗原検査やPCR検査も有料となったことで、発熱しても、検査を受けない患者が増えており、実際の感染動向の把握が困難となっている。

世界全体でもWHOが5月5日に、COVID-19に関する国際的な公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)を解除したことで、各国の報告基準がバラバラとなり、感染動向が見えにくくなった。

WHOの発表数字では、新規感染者数や死者数は低位な状況が継続したままだ。

但し、北半球が夏となる(南半球が冬となる)、今夏(今冬)、COVID-19の第9波が到来する可能性は高そうだ。

前述の通り、5月時点の我が国の抗体保有率は42.8%にとどまっている。実際の自然感染者数の比率はもう少し高いと考えられるが、それでも日本の総人口の3分1程度は、過去にCOVID-19の感染経験がないとみられる。

統計の正確性は大幅に劣化したと考えられるが、WHOによると、直近発表分である5月15日から6月11日までの28日間の新規感染者数の多い国・地域は、1位韓国、2位オーストラリア、3位ブラジル、4位フランス、5位シンガポールと、アジアやオセアニアで感染が続いている。

なお、同28日間の報告死者数は、1位ブラジル、2位ロシア、3位イタリア、4位スペイン、5位フランス。

猛暑で「密」になりやすい環境となる今夏には、2020年夏の第2波、2021年夏の第5波、2022年夏の第7波同様、第9波の感染拡大に留意する必要

現在実施されているワクチン接種は、高齢者、基礎疾患がある人や医療・介護従事者限定となっており、64歳未満のワクチン接種は、次回は9月以降となる。

しかも、現在、我が国を含め世界的に主流となっているXBB系統に対しては、従来株及びBA4・BA.5対応の2価ワクチンの感染予防効果は限定的とみられており、我が国でも9月に開始されるワクチン接種では、「XBB.1」系統だけに対応する「1価ワクチン」が使われる予定だ。

昨年暮れから年初にかけての第8波流行時に、ワクチン接種が進んだが、既に半年が経過し、抗体価が大幅に低下している。

5類移行により、感染予防措置は大幅に緩和され、社会経済活動の正常化が進んでいる。

猛暑が予想され、「密」になりやすい環境となる今夏には、2020年夏の第2波、2021年夏の第5波、2022年夏の第7波同様、第9波の感染拡大に留意する必要がありそうだ。

実際、梅雨明けが近づき、気温が既に上昇している沖縄では、前述の通り、感染が急拡大している。

過去のパンデミックの歴史や海外でのCOVID-19の感染収束動向等を勘案すると、パンデミック収束のためには、自然感染率の上昇が必要な面もある。

そういう意味では、第9波は避けられないとも言えるが、高齢者や基礎疾患がある方には、重症化予防のためにも、ワクチン接種が推奨されそうだ。

映画観客動員ランキングで『リトル・マーメイド』が2週連続第1位

前週末(6月16日-18日)の映画の観客動員ランキングでは、前月号で特集した『リトル・マーメイド』が2週連続で1位に輝いた(興行通信社調べ、以下同じ)。累計成績は動員96万9,000人、興収14億6,700万円を突破。

公開直後に鑑賞したが、映像美が素晴らしく、アンデルセン童話の「人魚姫」とは異なるストーリー展開も好感が持てた。

同じく前月号で特集した『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』が初登場第2位。

第3位は、公開8週目を迎えた『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』。累計成績は動員839万人、興収120億円突破。全世界では13億ドルを超え、日本及び全世界におけるイルミネーション作品の累計興収新記録を樹立。

第4位には、前月号で特集した『ザ・フラッシュ』が初登場でランクイン。DCコミックスから生まれた地上最速のヒーロー「フラッシュ」の活躍を描いた作品。ワンダーウーマンやアクアマンに加え、マルチバースの様々なバットマンやスーパーマンらが登場。DCファンには見逃せない作品。

第5位は、WBC侍ジャパンの記録映画、『憧れを超えた侍たち 世界一への記録』。当初は3週間限定上映の予定だったが、好評のため、6月29日(木)まで1週間の上映期間延長が決定。

第6位は、前月号で特集した『怪物』。カンヌ国際映画祭での受賞もあり、動員は90万人に迫り、興収は12億円を突破した。

第7位は、前月号で特集した『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』。

第10位に入った『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』の累計興収は130億円に近接。

国際映画祭での邦画や日本人俳優の受賞相次ぐ

なお、2023年5月16日(火)〜5月27日(土)に開催された「第76回カンヌ国際映画祭」で、『怪物』は、クィア・パルム賞と脚本賞(坂元裕二氏)を受賞。クィア・パルム賞は、LGBTやクィアを扱った映画に与えられる賞。

脚本賞受賞は、2021年の「第74回カンヌ国際映画祭」で濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が受賞して以来2年ぶり。

また、「第76回カンヌ国際映画祭」では、『PERFECT DAYS』で主演を務めた役所広司さんが主演男優賞を受賞した。

『PERFECT DAYS』(日本公開未定)は、『ベルリン・天使の詩」などで知られるドイツの名匠ビム・ベンダース監督が東京・渋谷を舞台にトイレの清掃員の男が送る日々の小さな揺らぎを描いた作品。日本人俳優の主演男優賞受賞は、『誰も知らない』の柳楽優弥さん以来19年ぶり2人目。

また、熊切和嘉監督の最新作『658km、陽子の旅』が、6月17日におこなわれた『上海国際映画祭』で最優秀作品賞、最優秀脚本賞、最優秀女優賞を受賞。

同映画は、父の訃報を受けて東京から青森の実家までヒッチハイクをすることになった42歳・独身のフリーター・陽子が、道中で出会う人々との交流やトラブルを通して、孤独と孤立に凍った心が溶けていく物語。陽子を演じるのは菊地凛子さん。『バベル』で米アカデミー賞助演女優賞にノミネートされ、『パシフィック・リム』シリーズにも出演した国際派女優だが、日本映画の単独主演は、これが初。

内外の注目作品の公開続く

東京都心でも最高気温が30度を超える「真夏日」が増えてきたが、米国では、5月から7月の「ハイサマー」(5月の最初の週末から13週間)は、映画のハイシーズンでもある。洋画大作の公開が今後も続く予定だ。

大名倒産

『大名倒産』
6月23日(金)全国公開
©2023映画『大名倒産』製作委員会

6月23日公開の『大名倒産』は、浅田次郎氏の同名時代小説を、『老後の資金がありません!』の前田哲監督が映画化。

越後の丹生山藩の鮭売り・小四郎はある日突然、父から衝撃の事実を告げられる。なんと自分は「松平小四郎」、徳川家康の血を引く大名の跡継ぎだと。庶民から一国の殿様へと、華麗なる転身と思ったのもつかの間、実は借金100億円を抱えるワケありビンボー藩だった。先代藩主・一狐斎は藩を救う策として「大名倒産」つまり藩の計画倒産を小四郎に命じるが、実は全ての責任を押し付け、小四郎を切腹させようとしていた。

残された道は、100億返済か切腹のみ。小四郎は幼馴染のさよや、兄の新次郎・喜三郎、家臣の平八郎らと共に節約プロジェクトを始めるが、江戸幕府に倒産を疑われ大ピンチ。果たして小四郎は100億円を完済し、自らの命と、藩を救うことが出来るのか。

殿になった途端に次々とピンチに見舞われる、巻き込まれ系プリンス・松平小四郎を演じるのは、神木隆之介さん。杉咲花さん、松山ケンイチさん、浅野忠信さん、佐藤浩市さんなどが集結。

6月30日公開の『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』は、ハリソン・フォードさん演じる考古学者インディ・ジョーンズの冒険を描くアドベンチャー映画の金字塔『インディ・ジョーンズ』シリーズの第5作。前作から15年ぶりの新作で最終章(?)。過去4作でメガホンをとったスティーブン・スピルバーグ氏はジョージ・ルーカス氏とともに製作総指揮を務め、『フォードvsフェラーリ』のジェームズ・マンゴールド監督がメガホンをとった。

「人類の歴史を変える力」を持つ究極の秘宝「運命のダイヤル」を巡り、考古学者にして冒険家のインディが、因縁の宿敵、元ナチスの科学者フォラーと全世界を股にかけて陸・海・空と全方位で争奪戦を繰り広げる。巨匠ジョン・ウィリアムズ氏のおなじみのテーマ曲に乗せて、インディ・ジョーンズと共に映画館で壮大な冒険を体験する究極のアクション・アドベンチャー。

7月7日公開の『バイオハザード:デスアイランド』は、カプコンのサバイバルホラーゲーム「バイオハザード」シリーズを原作とする長編CG映画。羽住英一郎監督が引き続きメガホンをとった。

アメリカ大統領直属のエージェントのレオンは、機密情報を握るアントニオ・テイラーを拉致した武装集団の車両を追っていた。だが突如現れた謎の女の妨害に遭い、犯人たちを取り逃がしてしまう。一方、対バイオテロ組織「BSAA」のクリスとジル、そしてアドバイザーのレベッカは、サンフランシスコを中心に起きている、感染経路不明のゾンビ発生事件を担当していた。クレアが勤める「テラセイブ」の調査協力の結果、ウィルスの被害者全員がある場所を訪れていたことを突き止める。そこは、かつて刑務所として使用されていた監獄島・アルカトラズだ。

7月14日公開の『君たちはどう生きるか』は、宮崎駿監督が『風立ちぬ』以来10年ぶりに手がける長編アニメーション作品。宮崎監督が原作・脚本も務めたオリジナルストーリー。

7月21日公開の『ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE』は、トム・クルーズさん主演の世界的人気を誇るスパイアクション『ミッション:インポッシブル』シリーズの第7作。2部作の前編。ノルウェーの雄大な山々に囲まれた切り立った断崖絶壁から飛び立つ、「俳優人生で最も危険」と自身が称する撮影を敢行。

タイトルの「デッドレコニング(Dead Reckoning)」は「推測航法」のことで、航行した経路や進んだ距離、起点、偏流などから過去や現在の位置を推定し、その位置情報をもとにして行う航法の意味。これまでさまざまな不可能なミッションを完遂してきたイーサン・ハントの集大成の物語となり、イーサンの過去から現在までの旅路の果てに待ち受ける運命を描く。

監督・脚本はシリーズ第5弾『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』以降のシリーズを手がけているクリストファー・マッカリー氏。

岸田首相、解散見送り

第211回通常国会は6月21日に閉会となったが、前週は会期末土壇場でやや肩透かしの展開となった。

岸田首相は15日夜、首相官邸で記者団の取材に応じ、「立憲民主党が内閣不信任案を出すというのであれば、内閣の基本姿勢に照らして、即刻否決するよう、先ほど茂木幹事長に指示を出しました。山口公明党代表にも協力を求めた次第です」と述べた。

そのうえで、記者団が「今国会で衆議院を解散しないということか」と質問したのに対し、岸田総理大臣は「今国会での解散は考えておりません」と言明した。

岸田首相は13日の記者会見では、記者の質問に対し、「解散・総選挙についても、基本姿勢に照らしていつが適切なのか、諸般の情勢を総合して判断していく、こうした考え方にあります。そして、こうした基本姿勢に照らして判断していくわけですが、今の通常国会、会期末間近になっていろいろな動きがあることが見込まれます。よって、情勢をよく見極めたいと考えております」と述べており、野党の内閣不信任案提出に対し、内閣を解散するのではないかとの思惑が拡がっていた。

立憲民主党は16日に衆院へ不信任案を提出したが、与党などの反対で否決された。

岸田内閣の支持率は2021年10月4日の政権発足後、高水準で推移、同年10月31日の衆院総選挙でも勝利したことで、当初から、2023年5月のG7広島サミット後の通常国会会期末に衆院解散に踏み切るのが最短シナリオとして指摘されてきた。

但し、2022年7月10日の参院通常選挙後、旧統一教会の問題が噴出、支持率が大きく下落したことで、解散風は完全に吹き止んでいた。風向きが変わったのは、3月21日に岸田首相がウクライナの首都キーウを電撃訪問して以降。

5月19-21日開催のG7広島サミットには、ウクライナのゼレンスキー大統領が対面で出席、国際的にも注目度が急上昇、内閣支持率も5月にかけて急反発した。

但し、岸田首相の長男祥太郎氏の不祥事やマイナンバーの誤登録問題等で、5月下旬以降は、支持率がピークアウト、不支持率も上昇に転じていた。

直近の世論調査でも、衆院解散のタイミングに関しては、国民の多数が来年以降と答えており、衆院任期4年の半分に満たない現段階での早期解散には慎重論もあった。

岸田首相が衆院解散を最終的に断念した背景

世論調査の動向以外にも、岸田首相が衆院解散を最終的に断念した背景としては、いくつかの要因が考えられる。

大きな要因としては、公明党との関係があろう。公明党はかねて、本年4月の統一地方選と近いタイミングでの衆院解散に反対を唱えており、衆院定数の10増10減に伴う候補者擁立問題で東京都での自公での選挙協力の解消が決まり、全国ベースへの波及が懸念されていた。

直近行われた自民党の情勢調査でも、公明党との選挙協力が不調の場合、不芳な結果になるとの見通しが示されていたようだ。

こうした情勢下、岸田政権を支える麻生副総裁や茂木幹事長が慎重論を唱えたことなども見送りの要因となったとみられる。

衆院解散・総選挙のタイミングは?

最短シナリオとされた今通常国会終盤での衆院解散はなくなったが、それでは、今後、衆院解散・総選挙のタイミングはいつが想定されるだろうか。

最大派閥出身でない岸田首相の場合、政権の長期化のためには、2024年9月の自民党総裁選前の衆院解散・総選挙で勝利し、出来れば無投票で総裁選を乗り切ることが必要だ。

但し、あまり、解散が遅くなると、菅前首相のように、衆院解散も自民党総裁選への出馬も出来なくなるおそれがある。

一方、衆院の解散は国会の会期中しか出来ない。最も近いタイミングで有力視されるのは、内閣改造・党役員人事に加え、今秋の臨時国会で、補正予算等を編成し、衆院を解散、総選挙を年内に終えるシナリオだ。

但し、10月には消費税の軽減税率導入に伴うインボイス制度が開始されることから、自民党の支持基盤である中小・零細企業の経営者の選挙応援活動にマイナスとなるとの見方もある。

また、少子化対策の「こども未来戦略」の策定等も年末とされており、政策推進的にはやや中途半端なタイミングとなる。

来年になると、年初は予算案の審議が必要となるため、今回同様、通常国会終盤での衆院解散の可能性が見込まれる。

2024年春のタイミングであれば、衆院の任期満了まで、1年半を切り、過去の任期の平均約2年半を上回り、解散が早すぎるとの批判は減少することになろう。

但し、欧米中銀の金融引き締め継続等により、海外経済がスタグフレーション等で下向く可能性もある。

1月の台湾総統選後、11月の米大統領選に向けて、国際情勢が不安定化する可能性も否定できない。

足元では、日経平均株価が3万3千円台と、1990年3月以来、33年ぶりの水準に上昇しているが、海外中央銀行の金融引き締めの影響もあり、米株価等は昨年来調整局面が続いている。

消費者物価の動向やマイナンバー問題は、衆院総選挙の大きな焦点となる可能性

本邦株価の上昇の背景の一つが円安に伴う海外からの資金流入だが、円安は国内の消費者物価の上昇を継続させる効果もある。

実質賃金や年金(実質)のマイナスの伸びが続くようであれば、内閣支持率には悪影響となろう。

近年、野党が分裂志向を強めていることが、小選挙区主体の衆院選では、与党に有利に働いているが、自公の亀裂が大きくなれば、自らにもマイナスとなる。

過去、自民党が大きく議席を失ったケースは、消えた年金問題やリーマンショック後の雇止め等、国民生活に大きな懸念が生じた場合が多い。実はこうした傾向は欧米諸国でも同様だ。

通常国会閉会後の21日の記者会見で、岸田首相は、物価上昇等に対応した構造的な賃上げ実現に加え、マイナンバー情報総点検本部を設置し、誤登録問題等に対し、コロナ対応並みの臨戦態勢で政府横断的に取り組むことを強調した。

消費者物価の動向やマイナンバー問題は、衆院総選挙の大きな焦点となる可能性もありそうだ。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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