アナリストの忙中閑話【第146回】

アナリストの忙中閑話

(2023年7月20日)

【第146回】熱波と大雨の2極化強まる、ウクライナ反撃作戦の障害は地雷原、米俳優組合が43年ぶりストライキ、夏休み映画公開

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

梅雨明け前にも関わらず、気温が全国的に上昇、東京都心の18日の最高気温は37.5度、一方、秋田市などで大雨続く

3連休最終日の7月17日(月)は、北日本を除き全国的に「海の日」らしい好天に恵まれたが、今年は梅雨明け前にも関わらず、各地で気温が半端なく上昇した。

東京都心でも、17日の最高気温は36.2度と「体温」並に、翌18日には37.5度と、「発熱状態」まで上昇。

一方で、死者9人と大きな被害をもたらした今月10日の九州北部での大雨被害に続き、秋田市などでは3連休の間、大雨・洪水に見舞われた。

猛暑と大雨の2極化は、世界中で頻発、北アフリカ、地中海、アジア、米国南部の大部分が「ヒートドーム」に覆われる

実は、猛暑と大雨の2極化という、こうした状況は、世界中で頻発している。

世界気象機関(WMO)によると、現在、北アフリカ、地中海、アジア、米国南部の大部分が、直線的かつ固定化された「ヒートドーム」に覆われ熱波の被害を受けている。

ヒートドームとは、高温の空気が巨大な高気圧の塊の下に閉じ込められ、滞留した状況を表す。

発生要因は、北極圏の気温上昇により、極渦が弱まることで、偏西風、その中でも高高度を吹く「ジェットストリーム(ジェット気流)」が南北に蛇行。結果、気温が上昇する地域と気温が低下する地域に2極化したこと。ジェットストリームが北上し南からの暖気で気温が上昇する地域がヒートドームに覆われた形となる。現在、北アフリカ、地中海、アジア、米国南部等が該当し、異常な高温を記録している。

14日以降、スペイン、イタリアやギリシャなど地中海沿岸部では、最高気温が40度(以下も特段の表示がなければ摂氏)以上に上昇。山火事が頻発している。

スペイン国立気象庁(AEMET)は19日、気温が42度から44度になると警告し、スペイン南部に最高レベルの非常警報を発令した。

イタリア国家気象局も、イタリア南部、シチリア島、サルデーニャ島で気温が40度をはるかに超える猛暑として非常警報を発令した。バルカン半島の一部にも非常警報が出ている。

ギリシャやトルコを含む地中海の一部地域では、7月19日までに暑さが激化すると予想されている。

7月18日の 最高気温は、イタリアのシチリア島のリカータで摂氏46.3度、リエージで45.8度が記録された。スペインでも、フィゲラス(カタルーニャ州)で45.3度、ポルケレス(カタルーニャ州)で44.3度、グラナダ(アンダルシア州)で43.3度、サ・ポブラ(バレアレス諸島州)で43.3度、リェイダ(カタルーニャ州)で42.8度が記録された。

地中海の海面水温(SST)は、今後数日から数週間にわたって異常に高くなり、一部の地域では30度を超え、地中海西部の大部分では平均より4度以上高くなる見込みだ。

北アフリカも高温に見舞われている。 モロッコ気象庁は7月13日、モロッコ南部地域に最高気温44度から49度という猛暑に対する警報を発令した。これは7月16日に更新され、中部と北部の気温は38度から47度の範囲となった。

「暖かい空気が北に運ばれ、冷たい空気が北に運ばれると、ジェットストリームは弱くなり、波打つようになる。こうした状況では、ほぼ定常的な気象パターンが確立され、一部の地域では長期にわたる熱波と干ばつが発生し、他の地域では大雨が発生する」とWMO気候サービス部門の専門家アルバロ・シルバ氏は述べた。

米国南西部の危険な地域にはカリフォルニア、ネバダ南部、アリゾナが含まれる。米国中南部および南東部では、最高気温が華氏110 度(摂氏43度)に近いかそれを超える可能性がある。

アリゾナ州フェニックスでは連日、華氏110(摂氏43.3度)を超える気温が続いている。18日現在で、華氏110度を超えるのは19日連続となり、1974年の18日連続を上回り、最長記録を更新。米国立気象局(NWS)によると、7月21日金曜日まで日中の最高気温は少なくとも華氏116度(摂氏46.7度)を超える見通しとのこと。

カリフォルニア州デスバレー国立公園内のファーニス・クリークの温度センサーは、7月16日に華氏128度(摂氏53.3度)を記録した。WMOによると、これまでに記録された最高気温は、1913年7月19日にファーニス・クリークで記録された摂氏56.7度。

カナダでは、今春以来高温等に伴い記録的な山火事が続いている。カナダ当局によると、2023年の焼失面積は900万ヘクタール以上に上っているが、過去10年間の平均は約80万ヘクタールで、大幅に上回っている。

中国の新疆ウイグル自治区のトルファン市郊外の三宝では7月16日に52.2度を記録、中国での新記録を樹立した(速報ベース)。中国では首都北京でも6月24日に6月の観測史上最高の41度を記録。

韓国、中国内陸部、インド北部、米国北東部では大雨・洪水被害

一方で、ジェットストリームが南に蛇行することで気温が低下した地域やヒートドームとの境目の地域では、大雨・洪水被害が頻発している。

7月14日には梅雨前線の活発化の影響で、韓国では大雨で洪水が発生し、死者46人、行方不明者は4人となった(19日現在)。

中国内陸部の重慶などでは、4日まで降り続いた大雨で広い範囲で洪水が起き、これまでに17人の死亡が確認されている。

インド北部ではモンスーンの大雨と洪水で川が氾濫、数十人が死亡した。

米国北東部では、7月初めの洪水に続き、ニューイングランドやニューヨーク州で豪雨に見舞われた。

WMOのペテリ・ターラス事務局長は18日、「地球温暖化の影響でますます頻繁に発生する異常気象は、人間の健康、生態系、経済、農業、エネルギー、水の供給に大きな影響を与えている。これは温室効果ガス排出量を可能な限り迅速かつ徹底的に削減することが緊急性を増していることを浮き彫りにしている」と述べている。

また、WMOのステファン・ウーレンブルック水文・水・雪氷圏局長は「地球の温暖化に伴い、ますます激しく、より頻繁に、より深刻な降雨現象が発生し、さらに深刻な洪水が起こることが予想される」と、警戒感を示した。

本年6月は、NOAAの174年間の記録上、6月として過去最高を更新

米海洋大気局(NOAA)は7月13日に公表した「地球気候レポート」で、本年6月は、NOAAの174年間の記録上、6月として過去最高を更新したと発表した。

本年1月から6月までの地球の表面温度は、記録上3番目に高くなった。

NOAAによると、2023年が観測史上最も暖かい10年にランクインする確率は99%以上で、97%の確率でトップ5にランクインすると予想されている。

6月の地球の表面温度は、20世紀の平均気温摂氏15.5度(華氏59.9度)を1.05度(1.89度)上回り、観測史上最も暖かい6月となった。6月の気温が平均を1度上回ったのは初めて。

なお、年間を通して最も暖かい月となったのは、2016年3月で、本年6月より0.29度(0.52度)高い。

世界の海面水温は3か月連続で過去最高を更新、6月は世界全体で海氷面積が史上最低を記録

世界の海面水温は3か月連続で過去最高を更新。本年6月は、NOAAの記録上過去最高を更新。

一方、2023年6月は、世界全体で海氷面積が史上最低を記録。主因は、南極では、2か月連続で海氷の面積が記録上最低記録を更新したこと。

南極の海氷面積は425万平方マイル(1,100万平方キロメートル)と過去最低となり、1991年から2020年の平均より94万平方マイル下回った。これまで過去最低だった2022年6月の記録を47万平方マイル下回った。

6月の世界の平均気温が6月として、過去最高となった背景には、エルニーニョ現象の発生も影響

6月の世界の平均気温が6月として、過去最高となった背景には、5月にエルニーニョ現象が発生したことも影響しているとみられる。

世界気象機関(WMO)は7月4日、エルニーニョ現象の発生を宣言した。

WMOは4日、「熱帯太平洋で 7 年ぶりにエルニーニョ現象が発生し、地球規模の気温の上昇と破壊的な天候と気候パターンが生じる舞台が整った」としている。

WMOの最新情報では、エルニーニョ現象が2023年下半期も継続する確率は90%と予測され、エルニーニョ現象は少なくとも中程度の強さであると予想されている。

エルニーニョは平均して、2〜7年ごとに発生し、その状態は通常9〜12か月続く。これは、熱帯太平洋の中部および東部の海面水温の上昇に関連して自然に発生する気候パターンだが、現在は、人間の活動による気候変動の中で発生している。

WMOの地球気候情勢報告書によると、非常に強力なエルニーニョ現象と温室効果ガスによる人為的温暖化という「二重の打撃」により、2016年は観測史上最も暖かい年となった。地球の気温への影響は通常、その発生の翌年に現れるため、2024 年に最も顕著になる可能性がある。

2022 年の地球の平均気温は、冷却効果のある三度発生したラニーニャ現象の影響で、1850〜1900年の平均気温を約1.15 ℃上回った。但し、ラニーニャ現象発生年としては過去最高となった。

エルニーニョ現象発生時の典型的な影響

エルニーニョ現象発生時の典型的な影響は以下の通り。

エルニーニョ現象は通常、南アメリカ南部、米国南部、アフリカの角、中央アジアの一部で降水量を増加させる。対照的に、エルニーニョはオーストラリア、インドネシア、南アジアの一部、中米、南米北部で深刻な干ばつを引き起こす可能性がある。

北半球の夏の間、エルニーニョの温水は中部/東部太平洋でハリケーンや台風を発生させる可能性がある一方、大西洋盆地でのハリケーンの形成を妨げる可能性がある。

WMOが今回、エルニーニョ現象の発生に対し、警告を発している背景

WMOが今回、エルニーニョ現象の発生に対し、警告を発している背景には、エルニーニョ現象の発生により、2023年から2024年の世界の平均気温が記録的な高水準となり、地球温暖化のトレンドが加速することで、健康や生態系、経済などに広範な悪影響を与えることを懸念しているものとみられる。

気温の上昇は、北極の海氷やグリーンランドなどの氷床を融解させることで、太陽光の反射を減少させる効果がある。結果として、北極海や極地・高地等での太陽光の吸収が増加し、気温上昇を促す。

また、気温上昇は、永久凍土等に含まれる有機物の分解を促し、メタンや二酸化炭素等の温室効果ガスを発生させることで、地球温暖化を促進する効果がある。

つまり、一段の気温上昇は、スパイラル的な気温上昇に繋がり、地球の冷凍庫であるグリーンランドや南極の氷床が融解することになると、海面高が大幅上昇するなど、将来、人類の文明に壊滅的な影響を与える可能性も否定できない。

そこまでいかずとも、地球全体で干ばつと大雨の2極化が顕著となり、砂漠化の進行とともに、大雨・洪水に加え、スーパー台風(ハリケーン)の接近・上陸等、気象災害の頻発・激甚化が想定される。

エルニーニョ現象は「冷夏」及び「暖冬」をもたらすとの意識が強かったが、今回は、「猛暑」と「記録的な暖冬」への警戒が必要

我が国では従来、特に20世紀においては、エルニーニョ現象は「冷夏」及び「暖冬」をもたらすとの意識が強かったが、今回は、「猛暑」と「記録的な暖冬」への警戒が必要と言えそうだ。

今夏の場合、①地球温暖化、②年初までのラニーニャ現象の影響、③正のインド洋ダイポールモード現象(IOD)の発生可能性により、エルニーニョ現象発生下でも、「猛暑」となる可能性が高いとみられる。

なお、正のインド洋ダイポールモード現象は、我が国に、真夏の高温と少雨をもたらすことが多い。

2024年に向けては、世界の平均気温が過去最高を更新する可能性

一方、今冬に向けてエルニーニョ現象は一段と強まり、スーパーエルニーニョに発達する可能性も一部で指摘されている。スーパーエルニーニョが発生した2016年、世界の平均気温は過去最高となった。

過去、10年タームで見ると、エルニーニョ現象発生年が最高気温を、ラニーニャ現象発生年が最低気温を記録していることが多い。

2024年に向けては、世界の平均気温が過去最高を更新する可能性が高いと考えられる。気象災害の頻発や激甚化も想定される。十分な備えが必要だろう。

ウクライナ軍による大規模反転攻勢開始から、まもなく1カ月半となるが、ウクライナ軍の進軍は極めてスローペース

6月上旬のウクライナ軍による大規模反転攻勢開始から、まもなく1カ月半となるが、ウクライナ軍の進軍は極めてスローなペースにとどまっているようだ。

今回の反撃作戦の最大の目標は、ロシア軍に大半が占領されたザポリージャ州を縦断しアゾフ海に到達、ロシア側のいわゆる「陸の回廊」を寸断することにある。結果、クリミア半島とドンバス地方を分断することで、ロシア軍を2022年2月23日以前の状態まで押し戻し、クリミア半島近くに、長距離砲等を設置、ウクライナにとって有利な条件で、ロシアを停戦交渉のテーブルにつかせることが目的とみられている。

実際、6月30日付けのワシントン・ポスト(WP)によると、ウィリアム・J・バーンズCIA長官が6月初めに極秘にウクライナを訪問した際、ウクライナ当局者らは、年末までにロシア占領地を奪還し、ロシアとの停戦交渉を開始するという野心的な戦略を明らかにしたとのことだ。

ロシアが実効支配するクリミアの境界線近くに榴弾砲とミサイルシステムを移動させ、ウクライナ東部にさらに進出した上で、2022年3月の和平交渉決裂以来、初めてモスクワと交渉を開始する方針を語ったとのこと。

ドネツク州の最前線は反攻前から約8キロメートル、ザポリージャ州では1.6キロメートルしか進んでいないところも

但し、15日付けニューヨークタイムズ(NYT)によると、ウクライナ軍の進軍は極めてスローなペースにとどまっているようだ。ドネツク州の最前線は、ヴェリカ・ノボシルカ付近にあったかつての最前線から5マイル(約8キロメートル)も離れておらず、アゾフ海からは55マイル(約89キロメートル)の位置にある模様だ。しかも、反撃作戦の主要部であるザポリージャ州では一段と進捗は鈍く、同州のオリヒウ付近ではさらに遅くなり、ウクライナ軍はわずか1マイル(1.6キロメートル)しか進んでいないとのこと。

背景にあるのは、地雷原の存在

背景にあるのは、地雷原の存在だ。

15日付のWPは、「ウクライナの反撃にとって最大の障害は地雷原」との記事を、16日付けNYTは「小さく、隠され、そして致命的な地雷、障害に阻まれたウクライナの反撃」との記事を配信している。

何れも、ウクライナ軍や欧米有志連合の想定を超えた多数の対戦車及び対人地雷が敷設されたことで、ウクライナ装甲部隊の進軍が止まり、歩兵が人の手で地雷を除去して回っている姿が伝えられている。

16日付けNYTによると、ウクライナ軍は陣地を確保するために、想像もしていなかった種類と密度のロシア製地雷を通過しなければならない模様だ。

ウクライナ軍が通過しなければならない平原には、プラスチックや金属製で噛みタバコの缶や炭酸飲料の缶のような形をした「魔女」や「木の葉」といったカラフルな名前が付けられた数十種類の地雷が散在しているとのことだ。

地雷除去のため欧米からは大型の地雷除去車等も供与されているが、数が少ない上に、同車両は大きな騒音を出すため、ロシア軍に発見されやすく、無人機や攻撃ヘリコプターの恰好の標的になっているとのこと。

結果、ウクライナ軍は地雷除去部隊の歩兵による手作業により地雷除去を強いられている。

しかも、昼間は目立ち、夜間も暗視スコープにより発見されやすくなることから、除去作業は夕方等限られた時間にしか出来ないため、進軍スピードが大幅に遅れている模様だ。

反撃作戦開始当初には、欧米から供与された「レオパルト2」戦車や「M2ブラッドレー」歩兵戦闘車等による大規模な進軍もみられたが、一部の部隊は地雷原にはまり、身動きがとれなくなったところに、ロシア軍のドローンや攻撃ヘリ、榴弾砲等により攻撃され、多数の被害が出たことで、その後、慎重な運用に変更されたようだ。

ウクライナの反撃の最初の2週間で、戦場に送られた兵器の20%が損壊

15日付けNYTは米欧の当局者からの情報として、ウクライナの激しい反撃の最初の2週間で、戦場に送られた兵器の20%が損傷または破壊されたと伝えている。この被害には、西側から供与された戦車や装甲兵員輸送車の一部が含まれている。

6月8日に「レオパルト2」や「M2ブラッドレー」等の隊列が地雷原にはまり、20両近い規模でロシア軍の攻撃により、損耗した作戦などが該当する模様だ。

当局者らによると、その後の数週間で損失率は約10パーセントに低下し、ウクライナ側がこれからと主張する大規模な反撃の推進に必要な兵力と装甲車両等の多くが維持されたという。

作戦改善の一部は、ウクライナが戦術を変更し、敵の地雷原や砲撃よりも榴弾砲や長距離ミサイルでロシア軍を疲弊させることに重点を置いたことによってもたらされた。しかし、その結果、進軍ペースは大幅にスローとなり、アゾフ海までの60マイルのうちわずか5マイルを奪還したに過ぎないとしている。

EU理事会の国防専門家で元NATO事務次長補のカミーユ・グランド氏は、ウクライナ軍の航空戦力の不足で制空権や防空能力がないことで、「他の従来の紛争よりも死傷率が高くなる可能性が高い」(15日付けNYT)との見方を示している。

反撃作戦で解放した領土は210平方キロメートル、昨年秋の反撃作戦では1万平方キロ超を奪還

ウクライナのマリャル国防次官は17日、ザポリージャ州方面での反攻で過去1週間に約11平方キロメートルの領土を新たに奪還し、反攻開始後に解放した領土は計約180平方キロメートルになったと発表した。東部方面を含めると、解放した領土は計約210平方キロメートルになったとした。

但し、ウクライナの国土(60万3,700平方キロメートル)の0.03%に過ぎない。

ウクライナは2022年9月以降、ハルキウ州やヘルソン州で、占領地を1万平方キロ超、国土の約2%を奪還しており、進軍ペースの鈍化は明らかだ(現在の被占領地域はクリミア半島含め約18%)。

こうした状況が、米国がウクライナにクラスター砲弾の供与を決定した背景とも言える。

米国は初めて「DPICM」と呼ばれる155mmクラスター砲弾を供与、既にウクライナに到着

米国防総省は7月7日、ウクライナに対する8億ドル規模の追加の軍事支援を発表した。2021年8月以来、米国防総省の在庫からの大統領ドローダウン(在庫放出)の42回目。

今回の支援内容は、「パトリオット」防空システムの追加の弾薬、「AIM-7スパロー」空対空ミサイル、「スティンガー」対空システム、「HIMARS」高機動ロケット砲システム用の追加の弾薬、155mm榴弾砲 31 門、155mm砲弾(DPICM を含む)、105mm砲弾、「M2ブラッドレー」歩兵戦闘車32両、「ストライカー」装甲兵員輸送車」32両、地雷除去装置、「TOW」対戦車ミサイル、「ジャベリン」およびその他の対装甲システム及びロケット、精密航空弾薬、「ペンギン」無人航空機システム、装備回収用の27台の戦術車両、装備を牽引および運搬するための戦術車両10台、障害物除去装置、小火器及び2,800万発を超える小火器の弾薬及び手榴弾、スペアパーツおよびその他のフィールド機器。

今回は「M777」とみられる31門の155mm榴弾砲に加え、初めて「DPICM」と呼ばれる155mmクラスター砲弾が含まれる。

14日付けNYTによると、クラスター砲弾は、「M864」。米国防総省は13日時点で、クラスター弾をウクライナに供与済としており、今後、実戦で使用される見通しだ。

なお、155mm榴弾砲の供与は今回含め計198門に上る。

クラスター砲弾は、親砲弾の中に大量の子弾が内包されており、「Dual-Purpose」とは、対装甲車輛と対人の両方へ攻撃可能に設計されていることを意味している。「M864」の場合、子弾は72個を内包。

クラスター砲弾供与の背景

今回、ウクライナの要請に基づき、バイデン政権が、従来の慎重姿勢を一変させ、クラスター砲弾の供与を決定した背景には、6月に開始されたウクライナ軍による反転攻勢がロシア側の堅い防御に阻まれ、進軍ペースが鈍いことに加え、通常砲弾が枯渇しつつあることがある。欧米諸国は現在、砲弾の大増産に入っているが、増産本格化にはもう少し時間を要することから、時間稼ぎの意味合いもある。

米国は既に、ウクライナに対し、155mm砲弾を200万発以上、105mm砲弾を50万発以上供与済。

コリン・H・カール国防次官は今回の発表により、米国は攻撃の重要な時期に直ちにウクライナに数十万発の大砲を提供できるようになると指摘した。また、今回、実戦投入する砲弾の不発率、各砲弾から放出される不発子弾の割合は2.35%であると評価されているとし、これは、開戦以来ロシアがウクライナ全土で使用したクラスター爆弾の不発率が最大40%だったのとは対照的だとしている。

「M2ブラッドレー」の強靭性が明らかに、米国の軍事支援の総額はバイデン政権補足後で433億ドル

なお、7日発表の米軍のウクライナ向けドローダウンでは、「M2ブラッドレー」歩兵戦闘車が32両含まれていた。

米軍による「M2ブラッドレー」歩兵戦闘車の供与総数は今回分含め186両に上るが、既に35両が損傷もしくは放棄された模様だ(Oryx)。

但し、ウクライナ軍によると、車両が損壊しても、大半の場合、乗員は脳震盪等除けば無傷で、「M2ブラッドレー」の防御面での強靭性が指摘されている。尤も、地雷が直撃すると、車両は移動不可能となり、回収して修理が出来なければ、損耗となる。

米国防総省は19日にも、総額13億ドルに上る追加の軍事支援を発表した。4基の「NASAMS」地対空ミサイルシステムなどが主体だが、こちらは「ウクライナ安全保障支援イニシアティブ(USAI)」から供与されるため、到着には時間を要する。

米国のウクライナ向け軍事支援の総額は、バイデン政権補足後で433億ドル、2022年2月のロシアの侵攻開始以来では426億ドルに上る。

クリミア大橋の損壊はロシアの物流に重大かつ持続的な影響を与える可能性

米シンクタンク「戦争研究所(ISW)」の7月18日付けのレポートによると、17日のクリミアとロシア本土を結ぶケルチ海峡橋(クリミア大橋)への攻撃は、南部で進行中のウクライナの反攻のさなか、占領下のクリミアへの観光客の交通がウクライナ南部へのロシアの物流を渋滞させているため、ロシアの物流に重大かつ持続的な影響を与える可能性が高いとしている。物流への影響は無視できないようだ。

同攻撃は、ロシア側の発表によると、ウクライナ軍の2隻の無人水上艇(ドローン)によるとされている。

また、ロシアはワグネル・グループの武装反乱を受けて、国内の治安機構を再編する取り組みを続けているとのこと。

7月17日、ハルキウ・ルハンシク州境沿いでロシア軍が攻撃作戦を強化した一方、ウクライナ軍は前線の少なくとも3部門で反撃作戦を継続した。また、ウクライナ軍はバフムト地域で反撃作戦を続け、ドネツクとザポリージャの行政境界付近まで進軍。

一方、ロシア軍はドネツク州西部で限定的な反撃を実施した。ロシア情報筋は、ウクライナ軍がザポリージャ州西部のオリヒウ地域で地上攻撃を続けたが失敗に終わったと主張した。

ウクライナ軍は、地雷除去とロシア軍の後方陣地や補給基地への攻撃を優先か

また、ISWによると、最近、ウクライナ軍は英国から供与された「ストームシャドウ」巡航ミサイルなどを使い、ウクライナ軍は定期的にロシア軍の補給基地等を攻撃しているとのことだ。

「ストームシャドウ」については、共同開発したフランスのマクロン大統領が11日、「SCALP-EG」(「ストームシャドウ」のフランス名)をウクライナに供与する方針を明らかにしている。

ロシアの兵站と地上通信線(GLOC)の破壊を継続することで、ウクライナ軍の人的被害を軽減する一方で、ロシア軍の継続作戦能力を低下させ、防御の穴が生じた段階で、温存している欧米製の装甲部隊を一気に投入する方針とみられる。

地雷原・制空権欠如から今夏中の防衛線突破は困難?戦争の長期化の可能性が一段と強まる

但し、地雷原の突破には、相当な時間を要しそうだ。

しかも、ロシア軍は、新たに無人機等から、地雷をウクライナ軍の進軍予想地に撒いているとのことであり、今夏中の防衛線突破は時間的に困難になりつつあるとも言える。

制空権の欠如もウクライナ側にとっては弱点となっている。

但し、秋にはラスプテッィツア(雪解け)が訪れることから、夏場に防衛線を突破できないと、次の山場は冬となる。

ウクライナが強く供与を求めている「F-16」戦闘機の投入は早くとも、冬以降とみられる。

今夏に勝負をかけるのであれば、筆者が「ゲームチェンジャー」となると考えている欧米製の長距離精密誘導兵器、具体的には、「GLSDB(地上発射型小口径爆弾)」や「ATACMS(陸軍戦術ミサイルシステム)」等の実戦投入が反撃作戦の成否に大きく影響することになろう。

こうした過程では、ウクライナ戦争のエスカレーション・リスクが高まる可能性にも留意する必要がある。

但し、足元の状況からは、戦争の長期化の可能性が一段と強まってきたようだ。

映画観客動員ランキングで『君たちはどう生きるか』が初登場で第1位

前週末(7月14日-16日)の映画の観客動員ランキングでは、前月号で特集した宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』が初登場で第1位に輝いた(興行通信社調べ、以下同じ)。17日までの4日間の累計成績は動員135万3,000人、興収21億4,900万円。

14日の公開日に鑑賞したが、過去の宮崎駿作品のオマージュが随所に散りばめられた作品。事前の宣伝や声優の発表等がなかったこともあり、金曜夜の映画館が観客で久しぶりに大混雑していた。

第2位は、同じく前月号で特集した『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』が前週のトップから1ランクダウン。累計成績は動員134万人、興収19億5,300万円を突破。公開直後に鑑賞したが、最終章とみられるだけあって壮大なストーリー。往年のインディファンには見逃せない作品だ。

第3位は、春場ねぎ氏原作の人気アニメのTVスペシャル版を放送に先駆け3週間限定で劇場公開した『五等分の花嫁』が初登場でランクイン。

第4位は、『東京リベンジャーズ2血のハロウィン編-決戦-』が前週の第2位からランクダウン。累計成績は動員121万人、興収16億円を超えた。

第5位は、公開12週目となった『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』。累計成績は動員917万人、興収131億円突破。全世界では13億ドルを超え、日本及び全世界におけるイルミネーション作品の累計興収新記録を樹立。

夏休み映画が内外で公開

東京都心でも最高気温が35度以上の「猛暑日」が頻発してきた。あまりの暑さで既に気分は「夏休み」だが、今後は、夏休み向け映画の公開が本格化する。

一方、米国では、5月から7月の「ハイサマー」(5月の最初の週末から13週間)は、映画のハイシーズンでもある。洋画大作の公開が今後も続く予定だ。

7月21日公開の7月21日公開の『ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE』は、トム・クルーズさん主演の世界的人気を誇るスパイアクション『ミッション:インポッシブル』シリーズの第7作。2部作の前編。ノルウェーの雄大な山々に囲まれた切り立った断崖絶壁から飛び立つ、「俳優人生で最も危険」と自身が称する撮影を敢行。

監督・脚本はシリーズ第5弾『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』以降のシリーズを手がけているクリストファー・マッカリー氏。

キングダム 運命の炎

キングダム 運命の炎
2023年7月28日全国東宝系にてロードショー
©原泰久/集英社 ©2023映画「キングダム」製作委員会

7月28日公開の『キングダム 運命の炎』は、「週刊ヤングジャンプ」に2006年から連載中の原泰久氏の人気漫画「キングダム」を実写映画化した『キングダム』シリーズの第3作。

500年に渡り、七つの国が争い続ける中国春秋戦国時代。戦災孤児として育った信(しん)は、亡き親友と瓜二つの秦の国王・嬴政(えいせい)と出会う。運命に導かれるように若き王と共に中華統一を目指すことになった信は、仲間とともに「天下の大将軍になる」という夢に向けて突き進んでいた。

魏国との戦い(パート2)に勝利した彼らを更なる脅威が襲う。秦への積年の恨みを抱く、隣国・趙の大軍勢が、突如、秦の首都を目指して侵攻してきた。復讐に燃える最強の将軍たちに対抗するべく、嬴政は、長らく戦から離れていた伝説の大将軍・王騎を総大将に任命する。出撃を前に、王騎から戦いへの覚悟を問われた嬴政が明かしたのは、かつて趙で人質として深い闇の中にいた自分に、光をもたらしてくれた恩人・紫夏との記憶だった。中華統一を目指す嬴政の覚悟を知った信。初陣を経て、100人の兵士を率いる隊長に成長した信は、王騎から『飛信隊』という名を与えられ、別動隊として敵将を討つ特殊任務を請け負う。失敗が許されない任務に挑む信たちは、秦国滅亡の危機を救う事が出来るのか?そして、王騎の知られざる過去も交錯し、運命は思いもよらない方向へと進んで行く。

信役の山崎賢人さん、嬴政役の吉沢亮さん、王騎役の大沢たかおさんら前2作からのキャストに加え、紫夏役で杏さん、趙の総大将・趙荘(ちょうそう)役で山本耕史さん、副将・馮忌(ふうき)役で片岡愛之助さん、副将・万極(まんごく)役で山田裕貴さんが新たに参加。

8月4日公開の7月21日公開の『マイ・エレメント』は、『リメンバー・ミー』など数々の独創的な作品を世に送り出してきたディズニー&ピクサーの最新作。

火・水・土・風のエレメント(元素)が共に暮らす都市「エレメント・シティ」を舞台に、だれも知らないイマジネーションあふれる色鮮やかな世界での奇跡の出会い、予想もできない驚きと感動の物語が始まる。ふたりの距離は近くて、遠い。正反対のふたりが起こす、奇跡の化学反応。本作の主人公は「火のエレメント・エンバー」と「水のエレメント・ウェイド」。様々なエレメントたちが共に暮らすエレメント・シティで、アツくなりやすくて家族思いな火の女の子エンバーと涙もろくて心やさしい水の青年ウェイドは性格だけでなく、その気になればお互いを消せる性質を持ち、全てが正反対の意外なふたり。正反対のふたりの出会いは「エレメントの世界」にどんな化学反応を起こすのか?

8月4日公開の『トランスフォーマー/ビースト覚醒』は、日本発祥の変形ロボットが活躍するSFアクション超大作『トランスフォーマー』シリーズ第7弾。時は1994年、地球を丸呑みする惑星サイズの最大・最強の敵「ユニクロン」が襲来。オプティマスプライム率いる「トランスフォーマー」と動物の姿をしたビースト戦士「マクシマルズ」が地球消滅の危機に共に戦う。

既に、試写会で鑑賞したが、シリーズ最大スケール。我が国発祥の変形ロボットが登場する作品には愛着を感じる。エンドロールの次作に繋がるシーンは必見。

しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜

しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜
2023年8月4日全国東宝系にてロードショー
©臼井儀人/しん次元クレヨンしんちゃん製作委員会

8月4日公開の『しん次元!クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦 とべとべ手巻き寿司』は、人気アニメ「クレヨンしんちゃん」のシリーズ初となる3DCGアニメーション作品。

ノストラダムスの隣町に住むヌスットラダマスはある予言を残していた。「20と23が並ぶ年に天から二つの光が降るであろう。一つは暗黒の光、もう一つは小さな白い光。やがて暗黒の光は強大な力を持ち、平和をごっつ乱し、世界にめっちゃ混乱を招くことになるんやでえ」。そして2023年夏、宇宙から二つの光が接近。

夕飯を待ちわびるしんのすけに白い光が命中する。体にみなぎる不思議なパワー。「お尻が、お尻がアツいゾ」力を込めるとおもちゃがフワフワと宙に浮いた!エスパーしんのすけ誕生の瞬間である。一方、黒い光を浴び、暗黒のエスパーとなった男の名は非理谷充。バイトは上手くいかず、推しのアイドルは結婚、さらには暴行犯に間違われ警察に追われていた彼は、力を手に入れたことでこの世界への復讐を誓う。世界の破滅を望む非理谷VSしんのすけ。「すべてが、しん次元」なちょー超能力大決戦が今、幕を開ける!この夏、絶望に立ち向かうしんのすけの放つ光に、胸と尻がアツくなる。

8月11日公開の『バービー』は、世界中で愛され続けるアメリカのファッションドール「バービー」を、マーゴット・ロビーさんとライアン・ゴズリングさんの共演で実写映画化。

すべてが完璧で今日も明日も明後日も「夢」のような毎日が続くバービーランド!バービーとボーイフレンド?のケンが連日繰り広げるのはパーティー、ドライブ、サーフィン。しかし、ある日突然バービーの身体に異変が!原因を探るために人間世界へ行く2人。しかし、そこはバービーランドとはすべてが違う現実の世界、行く先々で大騒動を巻き起こすことに。彼女たちにとって完璧とは程遠い人間の世界で知った驚くべき「世界の秘密」とは?そしてバービーが選んだ道とは?予想を裏切る驚きの展開と、明日を明るく変える魔法のようなメッセージが待っている。

8月11日公開の『リボルバー・リリー』は、長浦京氏の同名小説を原作に行定勲監督がメガホンをとった。綾瀬はるかさんが主人公「映画史上最強のダークヒロイン」小曾根百合を演じた。小曾根百合が手にするリボルバーは「S&W M1917」。

映画『SAND LAND(サンドランド)』

映画『SAND LAND(サンドランド)』
2023年8月18日全国東宝系にてロードショー
©バード・スタジオ/集英社 ©SAND LAND製作委員会

8月18日公開の『SAND LAND(サンドランド)』は、「ドラゴンボール」の鳥山明氏が2000年に手がけたコミック「SAND LAND」をアニメーション映画化。

魔物も人間も水不足に苦しんでいる砂漠の世界・サンドランド。悪魔の王サタンの息子で「極悪の悪魔」を自称しているが少年のように純粋な心を持つ王子ベルゼブブは、盗みが得意で物知りなお目付け役の魔物シーフや正義感の強い人間の保安官ラオとともに、広い砂漠のどこかにあるという「幻の泉」を探す旅に出る。

米俳優組合が43年ぶりにスト突入、脚本家組合との同時ストは63年ぶり

米国の俳優でつくる労働組合は7月13日、利益の公正な分配と労働条件の改善、AIの活用に関する規制づくりなどを求めて43年ぶりのストライキに入ることを発表、翌14日午前0時からストに突入した。

米俳優組合の正式名称は「映画俳優組合-アメリカ・テレビ・ラジオ芸術家連盟(SAG-AFTRA)」。所属組合員は約16万人。HPによると、同組合には、俳優、アナウンサー、放送ジャーナリスト、ダンサー、DJ、ニュースライター、ニュースディレクター、番組司会者、人形遣い、歌手、スタント、ナレーター等メディアアーティストが加入している。

今回のストは「全米映画テレビ製作者連盟(AMPTP)」との交渉が決裂したことが背景。AMPTPは、映画会社やテレビ局、ストリーミング事業者らが所属する連盟。

これとは別に、脚本家労組「全米脚本家組合(WGA)」が労働条件の改善を求め、AMPTP に対し、5月2日からストライキに入っている。WGAには1万1,500人の脚本家が加入。

両組合が同時にストを行うのは、1960年以来、63年ぶり。当時の俳優組合(SAG)会長は、後に米大統領となるロナルド・レーガン氏だった。

レーガン氏が率いた組合は「劇場用映画がテレビで放送された場合、再使用料が支払われること」を要求。その後、俳優組合は1980年にも映画がビデオ化されたときに、再使用料の支払いを求めてストを起こしており、今回は43年ぶり。

一方、全米監督協会(DGA)は6月に交渉が成立、ストには参加していない。立場の強いDGAは過去もほとんどストの実績はない。

今回のストの背景には、動画配信サービスの拡大等、近年の映画業界の急激な変化、特に報酬体系の変化がある。また、AIの発達等に対する、映画製作等に関わる俳優やスタッフらの将来への不安があると考えられる。

実際、俳優組合の主要な要求には最低賃金の引き上げに加え、ストリーミングサービスにおける報酬ルールやAI規制と肖像権におけるガイドラインの設定が含まれている。

レーガン氏らの働きにより、俳優などは映画のテレビでの2次公開時やビデオ等の販売時にも印税が得られることになったが、動画のストリーミング配信時には印税が得られていない。これは、ストリーミング回数が開示されていないことに加え、そうした契約がないためだ。結果、中堅や若手俳優等の収入が減少していると指摘されている。

今回の問題は深刻とも言え、ストは長期化も想定される。今後、影響が拡大しそうだ。

脚本家に加え、俳優やスタッフがストに参加したことで、ハリウッド映画などの撮影の延期や中止が避けられないとみられる。撮影が完了していても、編集や広報等が止まるため、公開延期は避けられないだろう。

ストに参加する俳優は、プレミアなどにも参加できないことから、映画公開に伴い来日する俳優も減少すると見込まれる。

実際、主演作品の公開時には頻繁に来日していたトム・クルーズさんは、今回も『ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE』のプロモーションのため、通算25回目となる来日を予定していたが、ストに伴い、来日が急遽中止となった。クリストファー・マッカリー監督らも参加予定だった今週17日のジャパンプレミアや舞台挨拶も中止となった。

But not today、「人生100年時代」では、老兵は死なず、働くしかない

因みに、『トップガン マーヴェリック』(2022年公開)に登場するトム・クルーズさん演じる海軍パイロットのピート・ミッチェル(マーヴェリック)は同作品の冒頭、無人機の開発を推進する上官から、「未来に君の居場所はない。パイロットは絶滅する」と叱責されるが、「だとしても今日じゃない(But not today)」と切り返す。

我が国でも時代の変化を感じるのが、若者の間で、従来からのコスパ(コスト・パフォーマンス)に加え、タイパ(タイム・パフォーマンス)が重要視されていることだ。

最近では、筆者の同年代でも研修や審議会の事前レクなどを倍速モードで見る人が増えているが、映画を倍速で観る感覚は未だに理解できない。画像に加え、間合いや音にも、監督や俳優の思いが凝縮されていることもあるからだ。

AMPTPなどは、倍速で観られた映画まで印税は払えないと主張するのかもしれないが、映像作品などの安売りは最終的に質の劣化を招かないか心配になる。

筆者の世代は40年前には、「新人類」や「ニュータイプ」と呼ばれたが、近い将来には、「旧人類」「恐竜」「絶滅危惧種」として扱われるのかもしれない。

筆者も見栄を張って「老兵は死なず,ただ消え去るのみ」と言いたいところだが、「人生100年時代」では、経済面からも、気を取り直して働く他なさそうだ。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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