FPの相続コラム「子々孫々へ遺す想い」【第51回】
【第51回】配偶者居住権 −効用と留意点−
2020年8月31日
FPの相続コラム「子々孫々へ遺す想い」では、相続に関連したお役立ち情報から最新の話題までをお伝えいたします。第51回目のコラムは、「配偶者居住権」に関するお話です。
配偶者居住権とは
2020年4月1日から民法の「配偶者居住権」に関する規定が施行されています。配偶者居住権とは「相続発生後も遺された配偶者が安心して暮らせるため」に創設されました。具体的には、相続財産に占める自宅の評価額の割合が高い場合、配偶者が自宅を相続すると金融資産を十分に相続できず、日々の生活に支障をきたしてしまう可能性があります。そこで、自宅の権利を配偶者居住権と所有権に分けることにより、配偶者は自宅に関しては、配偶者居住権だけを相続することで、他により多くの金融資産を相続することが可能になります。
これにより、日々の生活資金不足を解消(緩和)することができるようになりました。なお、配偶者居住権とは自宅建物に関する権利であり、これに付随する土地部分の権利を敷地利用権といいます。本稿では両者を合わせて配偶者居住権等とします。
配偶者居住権を成立させるためには
配偶者居住権は① 2020年4月1日以後に作成した遺言による遺贈(死因贈与契約を含む)、② 2020年4月1日以後に発生した相続における遺産分割協議での合意のほか、家庭裁判所による審判などで成立します。
なお、2020年3月31日以前に作成した遺言に配偶者居住権について記載していても、その部分は無効となります。そのため相続の発生が2020年4月1日以後でも配偶者居住権は取得できませんので、既に遺言を作成済の方は作成日にもご注意ください。また、2020年3月31日以前に発生した相続において、遺産分割協議の合意が2020年4月1日以後であっても、配偶者居住権は成立しません。
配偶者が亡くなった場合
配偶者居住権等を保有する配偶者が亡くなった場合(いわゆる二次相続時)には、配偶者居住権等は消滅するものとされています。そのため、配偶者居住権を設定することによって相続税額の軽減につながる場合もあります。
自宅の土地・建物の評価額を1億円、配偶者居住権等を4,000万円と仮定すると居住権設定後の所有権は6,000万円(=1億円−4,000万円)となります。
改正前は配偶者が自宅に住み続ける場合には、一次相続で配偶者が、二次相続で子供が自宅の土地・建物をそれぞれ相続するので、評価額1億円に対して2回相続税課税の対象になっていました。一方、改正後は一次相続で配偶者が居住権等4,000万円、子供が居住権を設定した所有権6,000万円を相続し、二次相続では居住権等が消滅するだけなので、自宅に対する相続税課税はありません。つまり、1億円に対する課税が1回だけになります。小規模宅地等の特例の適用により、土地部分の評価額が減額されるので、単純に半分になるわけではありませんし、自宅の土地・建物の40%が配偶者居住権等の評価額と決まっているわけでもありませんが、イメージ図は以下の通りです。
留意点
- 【遺言等の作成前】
- 配偶者居住権は、被相続人の相続開始の時に自宅が配偶者以外の第三者との共有になっていた場合には成立しません。自宅を建てた際に、一部を子供名義にしている方もいらっしゃいますので、遺言を作成する前に自宅の登記状況を確認しておきましょう。
- 【配偶者居住権取得時】
- 配偶者居住権を取得しても登記していないと、何らかの理由で所有者が所有権を第三者に譲渡してまった場合には、立ち退きを迫られると対抗できません。取得時には速やかに配偶者居住権の設定登記を行いましょう。逆に、取得時にきちんと登記していれば、仮に所有権が第三者に移っても住み続けることが可能です。
- 【配偶者居住権が消滅しない場合の課税関係】
- 介護施設等に入居するなどの理由で、配偶者が相続発生前に居住権を放棄すると、所有者(子供)に対して配偶者居住権相当額の贈与があったものとみなされ、贈与税課税の対象になります。一方、その際に所有者(子供)から配偶者に対して相応の対価が支払われた場合には、配偶者の譲渡所得となり、所得税課税の対象になります。相続税が軽減されていても、後日、贈与税や所得税が発生してしまえば、かえって税負担が増えてしまう可能性もあります。
最後に
人生100年時代を迎えて、配偶者の方が1人で生活する期間は確実に存在します。遺された配偶者の生活を守るため、更に税額の軽減の可能性を探るために、2020年3月31日までに遺言を作成済の方は、配偶者居住権について追加した方がよいかどうかを、この機会に是非ご検討ください。
ただし、配偶者居住権によって相続税の軽減につながるかどうかは、配偶者以外の相続人が「小規模宅地等の特例」の適用を受けられるかどうか、配偶者のその他の財産がどの程度か、配偶者の年齢や自宅の築年数などによって異なりますので、詳しくは税理士等の専門家にご相談ください。
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