FPの相続コラム「子々孫々へ遺す想い」【第67回】
【第67回】相続、2023年度からはこう変わる
2023年4月27日
FPの相続コラム「子々孫々へ遺す想い」では、相続に関連したお役立ち情報から最新の話題までをお伝えいたします。第67回目のコラムは、相続に関する2023年度からの変更点に関するお話です。
2023年度がスタート
4月から新年度が始まりました。新年度は様々な法令や制度改正が行われる時期でもあり、2023年度も私たちの生活に影響する様々な取り組みがスタートしました。私たちの日々の暮らしに直結するところでは「こども家庭庁」が発足し、出産や子育て支援に関する取り組みが強化されたり、マイナンバーカードの保険証利用も始まりました。では、相続について変わるポイントとしてはどのようなことがあるのでしょうか。今回は相続に関する2023年度からの変更点について知っておきたい2つのポイントについてお話しします。
特別受益・寄与分の主張は10年以内に
1つ目は4月1日から改正民法の施行により遺産分割ルールが一部変わったことです。
相続が発生し遺言書がない場合は相続人間で遺産分割協議を行うことになります。遺産分割協議自体には何年以内に必ず終えなければならないといった期間の定めはありませんが、遺産分割協議において、特別受益や寄与分を主張できる期間が相続発生後10年間となり、10年以上経過した後の遺産分割調停・審判では、裁判所は法定相続割合による分割しか認めないということになりました。つまり事実上、遺産分割協議は10年以内にまとめる必要があるということです(10年経過後も相続人全員が合意すれば法定相続分以外の分割も引き続き可能です)。
よく耳にすることですが、生前に財産を贈与された相続人がいる場合や介護などで生前に多大な貢献をした相続人がいる場合など相続財産の分け方を巡って相続人同士が対立するケースも少なくありません。それぞれを特別受益、寄与分といいますが、こうした特別受益や寄与分の主張がある場合は法定相続割合で分けるとかえって不公平になりかねないため、平等な相続を実現するために民法では遺産分割に特別受益と寄与分を反映させることを認めています。
確認しておくこととして、特別受益や寄与分の認定を主張するための証拠が必要であったり、認定要件も定められていますのでどんな場合でも認められるわけではありません。例えば長年介護した場合など寄与分を主張したいところでしょうが、通常の扶養義務の範囲内の介護では認められないケースもあり、法律に基づいて認定されることは押さえておいてください。
“争族”を避けるためには
これまでの問題点としては、特別受益や寄与分の主張は遺産分割協議・調停・審判の際に相続発生後何年たっても行うことができたため、遺産分割の話し合いが中断してしまい長期間放置されているケースや祖父母の相続を親世代で完了していないケースなど遺産分割を後回しにしているケースが多くあり、相続をきっかけとした空き家の増加などにもつながり社会問題化していました。
また、相続人間の問題としては、法定相続割合で遺産分割することが法令などで定められているわけではないため、特別受益と寄与分について相続人間の認識の違いにより分割に納得しない相続人がいる場合など相続が紛争化して“争族”になってしまうことがあげられます。
遺産分割で特別受益や寄与分を考慮するかどうかで、相続する金額にも大きな影響が出る場合がありますので、特別受益や寄与分の主張をしたいと考えている相続人の方は、落ち着いてから主張すればいいやと後回しにしてしまうことは禁物です。相続発生後の様々な手続きなどに忙殺される中でも、期限内に遺産分割協議を終わらせることを目指して早めに協議をスタートすることがこれまで以上に大変重要なポイントとなります。
また、財産を遺す立場から相続対策として検討しておきたいこととしては、特別受益や寄与分に配慮した遺言書の作成を検討するなど、遺された大切なご家族が争族で困らないように生前にしっかりと準備をしておくことが肝要です。相続対策の検討に当たっては早めに専門家へ相談することも選択肢の一つでしょう。
相続土地国庫帰属制度がスタート
続いて2つ目は、相続したものの使う予定のない土地を国に引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度が4月27日からスタートしたことです。
同制度は、相続または遺贈によって土地の所有権を取得した相続人が負担金を支払うことにより、一定の条件を満たした土地を手放して国庫に帰属させることができる制度です。
新ルール適用以降に相続した土地に限らず、これまでに相続した様々な土地が対象になりますので、不要な土地に対して固定資産税など維持・管理コストを負担してきた人や不要な土地の処分をあきらめていた人たちが、不要な土地だけを手放すことができるようになる制度として期待が寄せられています。
制度利用の条件は
国庫帰属が可能な土地は更地に限られ、債務の担保になっている土地、使用が決まっている土地、境界などで争いがある土地などは申請ができないなど多くの条件を満たす必要があります。また、申請ができるのは相続人本人および成年後見人などの法定代理人に限られているため、一般的な土地の売却のようにプロに手続きを一任することはできませんので注意が必要です(申請に必要な承認申請書の作成代行は、弁護士・司法書士・行政書士が行うことが可能です)。
法務局では制度の利用を検討している方に対して事前相談を受け付けていますが、3月1カ月間の事前相談件数は1,500件を超えているようで相続土地国庫帰属制度への関心の高さがうかがえます。相続した土地の売却や貸したりすることが難しく引き継ぎ手がいない土地がある場合には選択肢のひとつとして検討されてはいかがでしょうか。
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