FPの相続コラム「子々孫々へ遺す想い」
【第59回】

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(2021年12月27日)

【第59回】「みなし贈与」に注意!

FPの相続コラム「子々孫々へ遺す想い」では、相続に関連したお役立ち情報から最新の話題までをお伝えいたします。第59回目のコラムは、みなし贈与に関するお話です。

2021年末を迎えて

子々孫々挿絵

今年も早くも年末を迎え、相続対策として、暦年贈与や相続時精算課税制度を活用し、贈与を行われた方も多かったのではないでしょうか。本来、双方の「あげる」「もらう」という合意によって成り立つ生前贈与ですが、税法ではそれ以外に、合意がなくても実質的に贈与があったとみなされて課税される「みなし贈与」が存在します。もし税務調査で「みなし贈与」が発覚すれば、想定外の多額の税負担を課される可能性もあります。今後贈与を検討されている方は、贈与と「みなし贈与」との境界線をしっかり認識する必要があると言えます。

「贈与」と「みなし贈与」

贈与は、贈与者側の「無償で財産をあげる」という意思に対し、受贈者側の「もらう」という意思表示によって成立する契約であり、書面による承諾は不要とされています。しかし、贈与者が亡くなった後で、他の相続人や税務署などに対して、贈与契約に基づく贈与があった事実を客観的に証明するには、贈与契約書があるとスムーズで、後のトラブル回避につながります。

贈与を行うには、暦年贈与と相続時精算課税制度の2種類があり、年間110万円まで課税されないのが暦年贈与で相続時の課税対象を減らす方法としてポピュラーなものとなっています。一方、相続時精算課税制度は、生前に贈与した分が2,500万円までは課税されず、相続時に贈与時の時価で相続税がかかる制度となっています。
しかし、例外として双方合意の財産の受け渡しでなくても贈与とみなされて、贈与税の課税対象になる「みなし贈与」が存在します。本来の贈与と異なり、当事者間で贈与を行ったという認識がないまま気付いたら税金が発生してしまったということにもなりかねません。

代表的な「みなし贈与」

代表的なみなし贈与として挙げられるのが、生命保険の満期保険金です。保険料を支払う契約者と保険金の受取人が異なっていると、満期保険金や解約返戻金に贈与税がかかることになります。若いころに定期の生命保険に加入し、満期保険金の受取人として妻の名前を記入しているとすれば、そのまま保険が満期を迎えて妻が保険金を受け取ると、妻に贈与税が課されてしまいます。

他に考えられるみなし贈与の可能性としては、財産を著しく低い価額で譲渡した(低額譲渡)と判断されてしまうケースが挙げられます。生前対策として所有する不動産や株式などを子どもに低価格で譲渡するような場合です。著しく低いかどうかの判断は、その財産の種類や性質、取引の実情をもとに行うことになっています。

また低額譲渡と似た事例として受贈者に一定の債務を負担させることを条件にした「負担付贈与」があります。負担付贈与を受けた場合は贈与財産の価額から負担額を控除した価額に課税されることになります。この場合の課税価格は、贈与された財産が土地や借地権などである場合及び家屋や構築物などである場合には、その贈与の時における通常の取引価額に相当する金額から負担額を控除した価額によることになっています。また、贈与された財産が上記の財産以外のものである場合は、その財産の相続税評価額から負担額を控除した価額となります。ただし、負担付贈与により取得した上場株式の価額は、その株式が上場されている金融商品取引所の公表する課税時期の最終価格によって評価するなど、財産によりその評価方法は異なります。

通常の贈与は、当事者間の合意に基づき成立することが民法で定められていますが、みなし贈与にあたるケースは税法で定められています。ただし、例えば「著しく低い価格」に該当するかどうかの判断基準など詳細なことについては定められていないため、過去の判例などをもとに判断されているのが実情です。すでに挙げた例のほかにも、身内同士で無利息や低い利息で金銭を貸し借りした、親が子どもに貸したお金の返済を免除した、子どもが本来払うべき税金を親が肩代わりした、離婚の際の財産分与の割合が極端に多額だった、などがあり、みなし贈与の落とし穴は少なくないと言えます。

贈与を行うにあたって

先日、与党が公表した2022年度税制改正大綱では、暦年課税をはじめとした贈与税の仕組みを抜本的に見直す方針が改めて示されました。米国やドイツなどの欧米諸国では相続税と贈与税を一体的に扱うことで、「資産移転の時期の選択に中立的な税制」が構築されており、大綱ではこれらの国を参考に、暦年課税や相続時精算課税をはじめとした制度の見直しの検討を本格的に進めると明記しました。

相続・贈与の一体課税が行われるようになると、「みなし贈与」についても、相続税の調査時に過去にさかのぼって調査される可能性が高くなるものと思われます。資産移転にあたっては、専門家に相談するなど、慎重に事を運ぶようにしたほうがよさそうです。

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