FPの相続コラム「子々孫々へ遺す想い」
【第58回】

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(2021年10月27日)

【第58回】遺言の必要性 −予期せぬ出来事に備えて−

FPの相続コラム「子々孫々へ遺す想い」では、相続に関連したお役立ち情報から最新の話題までをお伝えいたします。第58回目のコラムは、予期せぬ出来事に備えた遺言の必要性に関するお話です。

新型コロナウイルス感染症収束の兆し

子々孫々挿絵

世界で最初に新型コロナウイルス感染症が確認されたとする日からもうすぐ2年が経とうとしています。人類の叡智を結集したワクチンと治療薬開発により、ようやく明かりが見えてきたような気がします。日本での感染者数は171万人、死者数は1万8千人を超えました。

その間、4度の緊急事態宣言発令により、友人、親戚、遠く離れた家族との面会制限を余儀なくされ、未だに不自由な生活を強いられています。面会も叶わぬまま大切な方の訃報に接した方もいらっしゃるのではないでしょうか。いつ何時、予期せぬ出来事が起こるか分からないということを思い知らされた2年間でした。

遺言の必要性

そんな、予期せぬ出来事への備えのひとつとして遺言があります。遺言は「多額の資産を持っている人が書くもの」とのイメージから、自分には必要がない、と考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、それだけではなく、お世話になった方、ご家族などへ感謝の気持ちを伝えるという役割もあります。

遺言の効果のひとつとして、相続人以外の人に財産を遺すことができる、ということがあります。「特別の寄与」の制度の改正により、相続人でない親族も寄与分として金銭請求をすることが可能になりました。しかし、それには、「無償で療養看護等をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加に繋がった」ということが条件のひとつとなります。つまり無償で被相続人の面倒をみたことにより、老人ホームや介護施設に入らずに済んだ等、客観的な証拠を示しながら相続人と話し合うことが必要となります。そのような話し合いを行うことはその方の立場上言い出しづらく、難しいことも多いかと思いますので、相続人以外でお世話になっている人がいる場合、予め遺言という形にして遺しておくことが大切になります。(併せてバックナンバー「【第41回】民法改正C被相続人の介護等をしていた「相続人の妻など親族の貢献を考慮するための方策」」もご覧ください。)

そのほかにも、相続人の負担を軽減できる、という効果があります。相続人のみに財産を渡すつもりであったとしても人数が多く、さらに相続人たちが離れて暮らしている場合、遺産分割の話し合いや書類のやり取りでも負担をかけることになります。遺言を作成した方の中には「自分の親が遺言を遺してくれたおかげで助かった」、逆に「自分の親は遺言を遺していなかったため、相続発生時の遺産分割で非常に苦労した」との経験がきっかけとなっている方もいます。万が一にでもトラブルの原因になってしまう事態に備え、遺言を遺しておくことは「争族」とならないために大切です。

遺言作成にあたり心掛けたいこと

遺言を作成するにあたり、まずは自分の保有財産、相続人を把握することが必要です。相続財産には、預貯金、不動産、有価証券などの財産のほか、借金や保証債務などマイナスの財産も相続財産の対象になります。これらは相続開始後に相続人が調査をすることもできますが、見つけ出すことができない財産が出てしまう恐れもあります。(併せてバックナンバー「【第48回】故人の金融資産を調べる方法 −預金口座の調べ方−」もご覧ください。)不動産については、古い田畑などは、所在が登記簿上は分かるものの具体的にどこを指し示すのかを知ることが困難となることもあります。可能であれば相続人と実際の場所を確認しておくことが望ましいでしょう。又、相続人がいないと思っていても戸籍等で調べてみると相続人が見つかるケースがあります。これを機に自分の相続人や、財産を渡したいと思っている人を財産目録とともに書き出してみるのも良いかと思います。

遺言は定期的に見直しを

遺言者は既に書いた遺言をいつでも撤回することができます。遺言を作成した後に財産の状況や相続人が変わり、内容の変更をする必要が出てくることは十分にあり得ることです。状況の変化によってはせっかく作成した遺言が役に立たなくなってしまうことになりかねません。遺言に書いた「その他の財産は○○に与える」の“その他”の一言に作成時に想定していなかった財産が含まれてしまうことがあります。こうした事態を防ぐためにも定期的に見直しが必要です。いずれは遺言を作成しなければと思いながらも先延ばしになってしまっている方も多いかと思います。しかし、遺言の作成には本人の意思能力が必要になります。そのため、例えば認知症を発症してしまってからでは作成が困難になってしまうこともあります。その他にも急病、事故等で突然に遺言を作成できない状態になってしまうことは残念ながらあり得ることです。緊急事態宣言も解除され、離れ離れとなっていた友人、ご家族と会うことができる日常が取り戻されつつあります。この機会に自分の財産について確認したり、誰に何を渡したいのか、考えてみてはいかがでしょうか。

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